
タッチスクリーンは便利で今やいたるところで活躍していますが、私たちはどうしても物理ボタンが欲しい時があります。
ガラス板を指でなぞるだけだと「押した手応え」がなく、操作できたのか不安になったり、目で確認したくなったりするからです。
そんな“手応え不足”を埋める技術として、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の研究チームが、画面の一部が実際に盛り上がり、見える図形をそのまま指で触って確かめられる触覚ディスプレイを開発しました。
投影した光を使って、必要な場所にだけ触覚の刺激を作り出せるのが特徴です。
この研究は、2025年10月15日付の『Science Robotics』誌で報告されました。
目次
- 画面の一部が自由自在に浮き上がる「新・触覚ディスプレイ」開発
- 光で動くピクセルの仕組みが「人が感じ取れる画面」をつくる
画面の一部が自由自在に浮き上がる「新・触覚ディスプレイ」開発
タッチスクリーンは、表示内容を自由に変えられますし、部品点数も減らせます。
スマートフォンはもちろん、券売機、家電の操作パネルなど、身の回りの機械が一気に“平らな画面”へ集約されました。
ただその一方で、タッチ操作が増えたからこそ「物理ボタンの良さ」も目立つようになりました。
物理ボタンには、触っただけで位置が分かり、押し込んだ感触で操作結果を確かめられる強みがあります。
視線を向けなくても指先の感覚で操作しやすいのです。
この点が重要になる場面の一つが、車のダッシュボードや車載タッチパネルです。
走行中は画面をじっと見るのが難しいため、分野によっては物理ボタンを見直し、復活させる流れもあります。
では、タッチスクリーンの柔軟さと、物理ボタンの分かりやすさを両立できないのでしょうか。
その答えとして昔から試みられてきたのが「触覚ディスプレイ」です。
ところが、触覚を細かく表現しようとすると、ピクセル(突起)を大量に並べて、それぞれを動かす仕組みが必要になります。
ピクセル数が増えるほど配線や制御が複雑になり、装置が大きくなったり、動作が遅くなったり、作りにくくなったりしがちでした。
今回、UCSBの研究チームが示したのは、こうした難しさを別の方向からかわす新しい触覚ディスプレイです。
画面に小さな「触れるピクセル」を並べ、光を当てた場所だけが一瞬盛り上がります。
重要なのは、この盛り上がりを作るために、各ピクセルへ細かな配線を引き回して駆動するのではなく、投影した光で“どこを動かすか”を指定できる点です。
では、どうやって光によってディスプレイ上に触覚を生み出すのでしょうか。次項で具体的に解説します。
光で動くピクセルの仕組みが「人が感じ取れる画面」をつくる
新ディスプレイの中核は、論文でオプトタクタイル・ピクセル(optotactile pixels)と呼ばれるミリメートルサイズの小さなセルです。
構造は意外と素朴で、ピクセル内部に空気を閉じ込めた空洞があり、その上に薄いグラファイト膜が張られています。
ここに短いレーザー光のパルスを当てると、グラファイト膜が光を吸収して急速に温まります。
すると内部の空気も加熱されて膨張し、その圧力で膜が外側へ押し出され、表面がふくらむのです。
盛り上がりは最大で約1ミリメートルに達し、指で触れると十分に分かります。
この仕組みは、光を受けた材料が温まり、気体が膨張して動きになるという、比較的単純な物理現象を上手く利用しています。
さらに注目すべきはスピードです。
ピクセルの応答時間はおよそ2〜100ミリ秒で、触覚として時間的にキレのある刺激になります。
研究者の説明では、単なる「ずっと出っ張ったボタン」というより、指先に短い触覚パルスが返ってくる感覚に近いとされています。
では、たくさんのピクセルをどうやって動かすのでしょうか。
この方式では、光が「電力」と「指示」の役割を同時に担います。
つまり、ピクセルごとに配線や駆動回路を埋め込む必要がありません。
その代わりに、レーザーを高速に走査する仕組み自体は別途必要で、走査された光が順にピクセルを照らすことで、輪郭や動く形、文字のような動的パターンを作れます。
性能面では、研究チームは最大1511個のピクセルを個別に制御できる装置を示しました。
同程度の変位量と応答速度を持つ従来の触覚ディスプレイと比べても、より多くのピクセルを扱える点が強調されています。
そして、この研究が丁寧なのは「動くこと」を示すだけで終わらず、人間の触覚として成立するかを知覚実験で確かめている点です。
報告によれば、参加者は触覚だけを頼りに、点として提示された刺激の位置をミリメートル精度で言い当てられました。
また、動く図形や、空間・時間のパターンの違いも識別できたとされています。
つまりこの装置は、単発の“押した感”にとどまらず、時間とともに変化する触覚情報を比較的忠実に再現できる可能性を示しています。
一方で、現時点でできないこともあり、発熱の扱い、耐久性の確保、そして私たちが見慣れたディスプレイのような数百万ピクセル級へ解像度を伸ばす点が課題として挙げられています。
現段階では、実用化の完成形というより「こうすれば光で高精細な触覚表示ができる」という土台を示した段階だと捉えるとよいでしょう。
それでも、研究チームは拡張の方向性を具体的に語っています。
車載タッチスクリーンで物理操作に近い手応えを作ること、触って理解できる電子書籍の図版など、応用のイメージは広がっています。
「見るだけの画面」に、必要なときだけ“触れる形”を生み出す発想が、タッチ操作の弱点を埋める次の一手になるかもしれません。
参考文献
Futuristic pixel-raising display lets you feel what’s onscreen
https://newatlas.com/technology/optopixels-laser-graphite-screen-touch-feel/
New haptic display technology creates 3D graphics you can see and feel
https://news.ucsb.edu/2025/022254/new-haptic-display-technology-creates-3d-graphics-you-can-see-and-feel
元論文
Tactile displays driven by projected light
https://doi.org/10.1126/scirobotics.adv1383
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

