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自由開発と共通システム……真のWEC黄金時代への一本道。隆盛見せるハイパーカークラスの次なるステップとは?

自由開発と共通システム……真のWEC黄金時代への一本道。隆盛見せるハイパーカークラスの次なるステップとは?

今や“黄金時代”と呼ばれるようになった世界耐久選手権(WEC)ハイパーカークラスだが、当初から大きな課題が存在していた。世界最高峰のスポーツカーシリーズで異なるふたつのレギュレーション、ル・マン・ハイパーカー(LMH)規則とLMDh規則のどちらかに基づいて開発されたマシンが競い合っているという状況だ。

 その違いをめぐってはこれまでも様々な議論が行なわれてきた。しかし現在、ハイパーカーメーカーは共通規則、あるいはそれに近いモノへの移行に向けた真摯な意思を示している。

 WECハイパーカークラスは2024年に行なわれた2029年末までの延長決定に続き、今年6月のル・マン24時間レースでさらなる3年延長(2032年末まで)が発表され、将来のクラス像を固めるプロセスが今週の第1回フォローアップ会議からスタートする。

 ここで注目すべきは、WECを共同運営するフランス西部自動車クラブ(ACO)とFIAが2024年と2025年に発表した内容には違いがあるということ。最初の発表では現行車両のホモロゲーションが2029年末まで延長されるというモノだった一方で、今年6月にマカオで開催された世界モータースポーツ評議会(WMSC)で承認を受けた追加延長は、実際の車両ではなくクラスの将来を延長するモノだった。

 これにより2030年以降はLMHとLMDhの規則が統一され、より公平かつ接戦が繰り広げられる舞台が整う可能性が生まれた。おそらく競争条件を均等化するためのシリーズの性能調整(バランス・オブ・パフォーマンス/BoP)への依存度も低くなるだろう。

 ACOのピエール・フィヨン会長はル・マンの恒例会見で「実務面での協議が必要だ」と述べつつ、「年末までに解決されるだろう」と示唆した。そしてメーカー側が両規則の何らかの整合を目指す意思を考慮すれば、このスケジュールが性急過ぎるとも言い切れない。

 WEC最高峰を戦うにあたり各メーカーの要求は異なる。フェラーリはハイパーカークラス参戦を検討する際、自社開発シャシーの必要性を強調した。モノコック開発パートナーがイタリアのダラーラであっても「フェラーリはフェラーリでなければならない」というのが彼らの主張だ。

 フェラーリが許容できなかったのは、ダラーラを含む公認レーシングコンストラクターが製造するシャシーをBMWやキャデラックと共有し、フェラーリとしてマシンを構築すること。フェラーリがLMH規則を選んだ理由のひとつはここにある。

 旧LMP1からWEC最高峰クラスを継続して戦うトヨタのLMHでのWEC参戦は、マーケティングの価値よりも研究開発面でのブランドへの利益を主眼としたプログラムとして位置づけられてきた。トヨタとしてはLMH規則を通じて、パートナー企業と共に独自のエネルギー回生技術とバッテリーを開発する必要があった。標準ハイブリッドシステムを採用するという考えは、ブランドにとって受け入れがたいモノだった。

LMDh勢の意見は?

 しかし、より安価なLMDh規則を選択したメーカー各車は、フェラーリとトヨタの要求を改訂規則に組み込むことに何ら問題はないと主張。改訂規則はLMHよりもLMDhに近い形になる可能性が高い。

 メーカーが既製品ではなく自社開発のLMDhシャシーを製造したいと望むことは問題ないのか? あるいはボッシュ・モータースポーツとフォートエクス・ゼロ(旧ウイリアムズ・アドバンスド・エンジニアリング)、Xtracが製造するリヤアクスルの標準ハイブリッドシステムを使用せず、自社開発のハイブリッドシステムを開発したいと望む場合も同じか? LMDh規則を元に963を開発するポルシェ・モータースポーツのトーマス・ローデンバッハ代表は、技術規則が全メーカーに平等に適用され、開発機会が均等であれば問題ないと考えている。

 メーカーが独自シャシーとハイブリッドシステムを開発できるようにLMDh規則を調整することはできると思うか? という問いに対してローデンバッハ代表は「絶対に可能だ。解決策はあると思う」と語った。

「メーカーが『我々にとってこれは重要だ』と言うのは完全に理解できる。これまで聞いた限りでは、全て解決可能だ。簡単とは言わないが実現可能だと確信している」

 LMH勢のシャシー問題についてローデンバッハ代表はこう付け加えた。

「LMDh規則内で自由開発がしたいのなら、何が問題なのか? 私には問題すら見当がつかない」

 そしてローデンバッハ代表は、ハイブリッドシステムの開発に関して「ハイブリッドシステムを自社開発することが最重要だと誰かが言うなら、それで構わない。許可された範囲の技術仕様を明確に定義すれば良いだけだ」と語った。

 また、LMDh車両MハイブリッドV8をWEC/IMSAに投入するBMWモータースポーツ部門のアンドレアス・ルース主任もポルシェと同様の見解を示した。

「自社開発のシャシーやハイブリッドシステムを持つことは問題ではない」とルース主任は言う。

「我々は賢明に技術規則を策定し、特定の優位性が生まれず、基本技術規則が全チーム共通となるよう設計すべきだ。これは実現可能だと考えている」

 こちらもLMDh勢であるアルピーヌのモータースポーツ主任であるブルーノ・ファミンも「今後の道筋はそれほど複雑には見えない」と考えている。そして規則の自由度が高まってもコストが上昇しないようにすることが鍵になると指摘した。

「技術的にはそれほど複雑ではない。しかしコストを合理的な水準に維持するよう注意する必要がある。各チームが独自のバッテリー、独自のMGU、その他様々なモノを開発しなければならなくなった場合、話は別だ」

規則統一は「早ければ早いほど良い」

 フェラーリの公式見解は、規則の共通化構想に「オープン」な姿勢であるというモノ。年初には同社のスポーツカープログラム技術ディレクターであるフェルディナンド・カンニッツォが、共通プラットフォームこそWEC唯一の進む道だと確信していると率直に語っていた。

「私にとって、目指すべきは共通プラットフォームで公平な競争環境を確保することだ」

 イタリア・マラネロでの2025年シーズンのWEC壮行会でカンニッツォはそう語った。

「リヤハイブリッドシステムを開発する必要があろうと、私は依然として単一プラットフォームというコンセプトを支持している」

 未来のWECへ向けた規則を形作る最初の会議において、LMH規則で義務づけられる四輪駆動という要素が争点になる理由は見当たらない。

 WECが2023年にLMDh車両を初導入した際、最初の性能均等化措置によって四輪駆動の優位性がほぼ消滅。フロントアクスルに伝えられる電動パワーの出力タイミングは技術規則からBoPへの以降に伴い、プジョー9X8の初期バージョンを除くLMH車両は、2022年の120km/hから190km/hに引き上げられた。つまりハイブリッドパワーは、四輪駆動が活きるコーナリングや立ち上がりではなく、基本的に直線走行時のみに使用される。

 プジョーはスポーツカーレース最高峰への復帰を宣言した際、四輪駆動に関して多くを語っていたが、現在は規則の共通化に向けた最近の動きを支持しているようだ。

「全体的に言って、車両の技術規則を統一しようとする試みに愚かな点や非合理な点はないというのが我々の立場だ」

 プジョー・スポールの技術ディレクターを務めるオリビエ・ジャンソニーはそう語った。

「問題は時期と方法だ。これを明確化する必要がある」

 共通規則導入タイミングは、プジョーにとって重要な課題だ。2024年に新バージョンの9X8を投入したが、同社は後継マシンの開発許可を求めている。早い段階で規則を統一したいという意向が明らかに見受けられる。

 ローデンバッハ代表は「早ければ早いほど良い」と語る一方で「実現可能かどうかは分からない」とも認めた。ファミン主任はさらに踏み込み、2030年を焦点としたタイムフレームは“問題”だと指摘。規則の統一化は緊急の課題だ。

 WEC主催側が頭を悩ませていることはファミンの発言からも明らかだが、メーカー間でも、ハイパーカーのBoPを必要悪として継続するという方向で、全会一致ではないものの合意しているようだ。

 ルース主任によると、BoPは規則の“基盤”のひとつであり、簡単に廃止できるモノではないという。またファミン主任は、不可欠なコスト削減であり、廃止を試みる動きを「野心的」と評した。

 ただ間違いないのは、ハイパーカーメーカー各社とも規則共通化に向けた足並みが揃っているということ。WECはほぼ間違いなく統一に進んでいる。ハイパーカーが真の黄金時代を迎えるためには必要なことかもしれない。

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