11月にアブダビのヤス・マリーナ・サーキットで行なわれた、無人の自律運転車両によるレースイベント、A2RL。今年が2回目の開催となり、各車が前回大会とは見違えるようなスピードを見せる中、日本から唯一の参加のTGM Grand Prixも本戦出場は逃したものの、“シルバーレース”で優勝を飾った。
TGMは今年が初参加。レーシングチームとしても唯一の参加ということで注目を集めた。本戦参加のためには、“クオリティゲートウェイ”と呼ばれるテスト項目を9月某日までにクリアしなければならず、TGMは他車認識のシステムで基準に満たず、本戦出場を逃した。
しかしそういったチームが複数あったことから、本戦に出場できない5チームによる単走タイムアタック形式のシルバーレースが急遽発足。そこでTGMは最速の称号を得たわけだ。
TGM Grand Prixの池田和広代表は、こう説明する。
「ウチを含めた5チームが他車認識、オーバーテイクのシステムを搭載することができませんでした。ウチは50km/hまでのスピードであれば完璧なオーバーテイクができたのですが、テストでは100km/hの速度で合格する必要がありました。それが人的な問題、時間的な問題もあり、どうにも間に合いませんでした」
「それに、1周80秒で走らないといけないという点にも注力しなければいけませんでした。どちらも諦めるかという議論もありましたが、ここまで来たらレーシングチームとして80秒は切ろうということで取り組んだ結果、79秒でラップタイムは一応合格でした」
TGMはシルバーレースにおいて、参戦2年目のチームもある中で最も速いラップタイムを刻んだ。前述の通り、当初はヤス・マリーナの北コース(バックストレート1本目を終えると最終コーナーへとショートカットするレイアウト)を80秒弱で周回するレベルだったにもかかわらず、シルバーレースでTGMが刻んだタイムは64秒台。これは本戦に出場していたトップチームからは約6秒落ちのタイムだった。
「そこには2年目のチームもいる中で、勝つことができました。1分04秒4というタイムで、2番手がコンマ5秒遅れ、3番手が3秒遅れでした」
2024年に開催された初回大会では、AI車両はお世辞にも速いとは言えず、他車をうまく認識できず立ち往生する場面もあった。しかし第2回大会では、スピードの面でも他車認識の面でも飛躍的な改善が見られた。メインレースでは特に上位2チームが非常に速く、レース中には人間さながらのオーバーテイクも見られた。
「去年の勝ったチームも、今年のウチより遅いと思いますよ」
そう語る池田代表。イベントでは元F1ドライバーのダニール・クビアトが乗る車両がAI車両を追いかけるという“人間vsAI”のデモンストレーションバトルが行なわれた。クビアトは最速57秒のラップタイムで追いかけたが、AI車両も59秒台のタイムを刻んで10周を逃げ切った。スーパーフォーミュラSF23をベースとしたA2RLの車両は「人には乗りづらいクルマになっているので、乗りづらそうにはしていましたけどね」と池田代表は言うが、AI車両が大きな進化を遂げているのは間違いない。
次回開催時には、TGMも他車認識の課題をクリアできるはずだと意気込む池田代表。また将来的には他車認識のシステムなどがさらに熟成され、最終的にはAI車両がプログラム通りに走るのではなく、自らブレーキングポイントや走行ラインを判断するようになるのではないかと述べた。
「我々としては他車認識を確立していくという課題がありますが、それが見えないかと言われたら見えていますので。時間と人を注ぎ込めばクリアできると思います」
「1年後にはみんな、今回の上位陣が記録した1周58秒というタイムに近付いていくんじゃないかと。その中で、他車認識のシステムの精度をいかに高めるかというところになってくると思います」
「その先、今の上位陣はAI自らが判断していくことになるかもしれませんね。今は『このラインを通ってください』というもの(プログラム)になっていますが、今後はラインやブレーキングポイントを指定しなくても、AIが勝手に判断していくようになるんじゃないかと思います。そうすると、レースのバトルもよりレベルが高くなるでしょうね」

