●業界の常識を打ち破る斬新な発想と技術力の高さ
もう少し分解して、技術力と製品力の両軸から同社の人気の理由を分析してみよう。
まず、技術力においては、全景カメラの新しい分野の製品だからこそ避けられない課題を新しい発想をもって解決してきた。例えば、最新モデルにして売れ筋のX5は、業界で初めてデュアル1/1.28インチ大型センサー+AIトライコアのアーキテクチャ(AIチップ3基)を採用することで、3基のAIチップによる強力な処理能力で、低光量環境下でも非常にクリアでノイズの少ない高画質な撮影を実現している。
業界では一般的に「シングルチップの全景カメラのアーキテクチャと処理能力では、複雑なリアルタイムノイズリダクションアルゴリズムを処理できない」という考えがあったが、二つのセンサーチップを追加するという新発想で新たな価値を生み出して見せた。
また、全景カメラは「カバーする画角が広く、シーンが複雑であるため、色彩をリアルで階調豊かに表現することは難しい」という共通認識もあったが、X5はAI カラーマッピングモデルをトレーニングし、カメラがさまざまなシーンに動的に適応できるようにすることで、従来モデルを上回る色彩表現の高さを実現した。
●ニーズを先読みして製品に反映。市場拡大にも大きく貢献
次に製品力においては、ユーザーニーズをとことん研究してきた成果が生きている。これは現状のニーズを正確に把握するだけでなく、潜在的なニーズを掘り起こすことも含まれる。開発マネージャーが製品をブラッシュアップするために、スノーボードの公認インストラクター資格を取得したというエピソードからも、その没入度が相当なものだということが分かる。
ユーザーから評判の高い編集機能も、まさにそうした研究の賜物だ。アクションカメラは総じて撮影から編集までのプロセスが複雑で、新規参入ハードルが高かった。だが、Insta360はAI アルゴリズムとソフトウェアの改良を重ねることで、専門知識を有していなくても満足度の高い撮影と編集ができることを業界の基準にした。
いまや全景カメラは、動きの激しいアクティビティで活用するだけでなく、一般的な観光旅行でも活用されるようになってきている。これらのニーズの変化による市場規模の成長は、先読みして誰でも使いやすい環境を整えたInsta360の功績も大きいだろう。
マーケティングの観点でも緻密な戦略が練られている。日本市場だけに絞っても、ユーザーの裾野を広げるための活動は多岐にわたる。製品のユーザーインターフェースやコンテンツで正確な日本語翻訳を行っていることはもちろん、国内で支持を集めるクリエーターとのコラボやアンバサダーの採用は、多くの人が製品を手に取るきっかけになっている。
全景カメラは歴史が浅いカテゴリーということもあり、まだまだ進化の伸びしろは大きい。来年もハードウェアとソフトウェアの両面でさらなるアップデートが行われていくはずだ。Insta360は来年も続々と新製品を展開していく予定とのこと。ユーザーの要望に応える、あるいは想像もしていなかった価値を生み出すプロダクトの登場に期待したいところだ。(フリーライター・小倉 笑助)

