
なぜ、明らかな証拠が乏しくても、陰謀論を信じてしまう人が後を絶たないのでしょうか。
それは個人の思い込みや性格の問題だけではなく、私たちが暮らす「社会のあり方」そのものと深く関係している可能性があります。
スイス・ローザンヌ大学(UNIL)らの最新研究により、ある社会条件のもとでは、人はより陰謀論を信じやすくなることが明らかになりました。
研究の詳細は2025年10月30日付で学術誌『European Journal of Social Psychology』に掲載されています。
目次
- 陰謀論はなぜ広がるのか
- 「言論の自由」が鍵を握っていた
陰謀論はなぜ広がるのか
陰謀論とは、出来事の背後で強大な集団や権力者が密かにすべてを操っていると考える説明のことです。
新型コロナウイルスの流行や政治的事件、大きな事故など、不安や混乱が生じる場面で特に広がりやすいとされています。
こうした考え方は、複雑で理解しにくい現実を「悪役」と「筋書き」によって単純化してくれます。
誰かが裏で操っていると考えれば、不確実な状況にも一応の意味づけができるからです。
また、陰謀論は感情に強く訴え、印象的で覚えやすい物語として語られるため、事実関係の検証よりも先に人々の心に入り込みます。
一度信じてしまうと、それを裏づける情報だけを集め、反対の証拠は「隠蔽の一部」として退けてしまう傾向も指摘されています。
では、こうした陰謀論は、どのような社会で生まれやすいのでしょうか。
「言論の自由」が鍵を握っていた
この疑問に答えるため、研究チームは5つの研究を行いました。
その中心にあったのが「言論の自由」という社会条件です。
最初の研究では、複数の国を対象に、言論の自由の水準、言論の自由への支持、新型コロナウイルスに関する陰謀論的信念、腐敗の認識、民主主義の認識などの関係が分析されました。
その結果、言論の自由が低く、言論の自由を支持する人が少ない国ほど、陰謀論的信念が強い傾向が確認されました。
さらに実験研究では、参加者に架空の国の市民になったつもりで状況を想像してもらい、その国の言論の自由が「低い」場合と「高い」場合を読み比べてもらいました。
その後、政府が関与しているかもしれない出来事についてどれほど疑うかを評価してもらったところ、言論の自由が低いと感じた参加者ほど、陰謀論を信じやすくなることが示されました。
この効果は、その社会がどれほど民主的だと感じられているかを考慮しても残りました。
つまり、民主主義の印象とは別に、言論の自由そのものが、人々の認知に影響を与えている可能性が示されたのです。
この研究は、陰謀論が単なる突飛な考えではなく、人々が置かれている社会環境への反応として生まれる側面を持つことを示しています。
言論の自由が制限され、意見を表明しにくいと感じる社会では、人々は公式な説明を信用しにくくなり、裏の意図を疑う方向へ傾きやすくなるのかもしれません。
陰謀論を減らすには、個人の「信じやすさ」を責めるだけでは不十分です。
人々が安心して意見を述べ、情報を吟味できる社会条件を整えることこそが、陰謀論に強い社会をつくる鍵なのかもしれません。
参考文献
Conspiracy beliefs are higher in societies with lower freedom of speech, study finds
https://www.psypost.org/conspiracy-beliefs-are-higher-in-societies-with-lower-freedom-of-speech-study-finds/
元論文
The Impact of Freedom of Speech on Conspiracy Beliefs
https://doi.org/10.1002/ejsp.70029
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

