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なぜ人は「未来」にしか興味を持てないのか――バカリズムの大喜利回答が突いた人間の本質とは

なぜ人は「未来」にしか興味を持てないのか――バカリズムの大喜利回答が突いた人間の本質とは

コスパ、タイパ――。現代人は、できるだけ無駄を省き、効率よく成果を得ることを良しとする。しかし、その価値観は、私たちから何か大切なものを奪ってはいないだろうか。偶然が生んできた数々のイノベーションを振り返りながら、「戦略的なムダ」の意味を考える。

『戦略的暇 人生を変える「新しい休み方」』より一部を抜粋、編集してお届けする。

ランダムを愛そう

お笑い芸人のバカリズムさんが、ある大喜利の番組でこんな回答をしていました。

【お題】タイトルコールを聞いた瞬間切りたくなるラジオ番組とは?

―昨日の天気


思わず笑ってしまったと同時に、いかに人が未来に起こりうることにしか関心がないのか、その真理をついた回答にも思えました。私たちは天気予報、株価予測、トレンド予測などの科学的な知見に基づいた予測から占いまで、この先に何が起きるかを知りがたる生き物です。

そして、この先に起きるであろう予測のストーリーを前提に、打算的に、効率的に生活しようとします。

裏を返せば、私たちは偶然に起きること、予期もしないこと、つまり「ランダム(偶然)な事柄」に対して身構える生き物です。私たちは100%死ぬことがわかっているのに、死亡保険に加入し、〝万が一の死亡〞に備えるのです。

テクノロジーが発達し、いろいろなことが予測可能になりました。でもだからこそ、言いたい。「世界を作っているのは偶然だ」と。

世界で初めて発見された抗生物質「ペニシリン」は、偶然の産物でした。実験室の培養皿にカビが生えていたら、通常であれば廃棄していたでしょう。

しかし、それに気づいた細菌学者のアレクサンダー・フレミングは、カビの周囲に細菌が生育しないことを観察し、研究が進んでペニシリンが誕生しました。この「偶然の発見」が、医療に革命をもたらしたのです。

X線もナイロンも、カフェインもコカ・コーラの配合も、研究や製品開発の過程で偶然見つかった産物であり、意図せぬ発見が今日私たちの目の前にある当たり前の世界を作り出しています。

この偶然がもたらすイノベーションを人工的に再現するため、「ランダム」を戦略的に取り入れる企業もあります。その筆頭が、Googleです。

従業員が自分の本来の仕事とは別に、週の20%を新しいプロジェクトに自由に使える「20%ルール」を導入し、社員が好奇心やインスピレーションから新しいプロジェクトに取り組めるように促しました。このルールから、GmailやGoogleNewsといったサービスが生まれています。

ちなみにGoogleはオフィスのレストランにカウンター席を設けず、あえて個食ができないような空間設計を施しています。これにより違う部署の人たちとの相席が生まれ、新たな着想が生まれるきっかけを作っているのです。Gmailのアイデア自体は、相席で生まれたと言われています。これも、スぺパを高める好例と言えますね。

スティーブ・ジョブズが語った「点と点を結ぶ」

続いて、日本のバイオテクノロジー企業のユーグレナ。同社は、「6:3:1の投資ルール」を定めています。直近の事業に役立つ研究に6割、中期的に役立ちそうな研究には3割、そして、現時点では何に関係するかまったくわからない研究に1割の予算を割くそうです。

このルールは、個人の生活にも当てはめられそうです。僕はこの話を聞いて、読書で「6:3:1の投資ルール」を実践しました。

読書では、直近で役立ちそうな内容や自分の興味のある内容の本ばかり読んでしまいがちですが、ネットで欲しい本を購入するだけではなく、リアル書店を練り歩いて、まったく関係ない本を読むように心がけています。

リアル書店は店舗によって選書も異なりますし、いつもは訪れないジャンルの本棚の前をただ歩くだけでも意外に面白そうな本が見つかるものです。そういう意味では、リアル書店もランダムな発見がしやすいスぺパの高い空間と言えます。

ご紹介した事例は、やはりコスパやタイパの観点で言えば良いとは言えません。しかし、何かとの偶発的な出会いが長期的には大きな影響をもたらす可能性があると考えると、私たちは予定調和になりがちな毎日に少しでも偶然のエッセンス―戦略的〝ムダ〞を加えてあげることが重要に思えます。

「里親の預貯金を大学入学で使い果たしたものの、その後大学で単位を取ることに意義を見出せず、退学。その後はキャンパス内を練り歩いては、興味のある授業だけこっそりと聴講していた。

このときに受けたカリグラフィー(文字を美しく見せる手法)の講座で、彼は手書きの美しい文字に感銘を受けた。後に彼は、シンプルで鮮やかなフォントを掲載するコンピュータを生み出した。」

これはAppleの生みの親、本書でも何回か登場したスティーブ・ジョブズのエピソードです。彼は2005年のスタンフォード大学卒業式のスピーチに、この体験を「当時は、これがいずれ何かの役に立つとは考えもしなかった」と明かし、最初のマッキントッシュの設計時にカリグラフィーの講座で聞き齧かじった知識がよみがえってきたと語っています。

そして、彼のスピーチは「点と点を結ぶ」話へと繫がっていきます。

〈中略〉将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。運命、カルマ…、何にせよ我々は何かを信じないとやっていけないのです。私はこのやり方で後悔したことはありません。むしろ、今になって大きな差をもたらしてくれたと思います。

僕は学生のとき、必死で就活する周りを尻目に音楽活動をしたり、日本語教育の講座を受けたりと、完全にレールを外れていました。それで良いんだと強がっていたものの、内心は不安でした。そんなとき、お守りのように毎日聞いていたのがこのジョブズのスピーチです。

改めて彼のスピーチを聞き直すと、自分が興味・関心を持てる事柄を素直に追求することの怖さについても、認めているのですね。だからこそ「信じるしかないのだ」と。

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