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歌舞伎役者・市川染五郎「宿命の中で自分の答えを探していくしかない」歌舞伎の世界で父や先輩と向き合う日々

歌舞伎役者・市川染五郎「宿命の中で自分の答えを探していくしかない」歌舞伎の世界で父や先輩と向き合う日々

イヤミス(読後にイヤな気持ちになるミステリー)の女王と呼ばれるベストセラー作家・湊かなえの『人間標本』が、Prime Videoでドラマ化。“親の子殺し”というセンセーショナルな作品に挑んだのは、歌舞伎俳優の市川染五郎だ。父親・榊史朗(さかき しろう/西島秀俊)に人間標本にされる息子・榊至(さかき いたる)という難役を、繊細に体現した。20歳の彼は、なぜ現代劇ドラマ初出演作に本作を選んだのか。ハードな撮影の裏側はもちろん、歌舞伎の世界で生きる者の宿命や、唯一「素の自分に戻れる」貴重なプライベート時間についても聞いた。

大好きな江戸川乱歩にも通じる、残酷さと美しさ

──初の現代劇ドラマで、かなり衝撃的な内容の本作への出演を決めた理由を教えていただけますか?

市川染五郎(以下、同) これまで歌舞伎を中心に舞台で芝居をしてきましたが、祖父や父、叔母が映像作品に出ている姿をずっと見て育ったので、「自分もいつかは」と思っていました。

湊先生の原作は今回初めて読ませていただいたのですが、親子の愛や才能の継承といった重いテーマを扱い、グロテスクな表現もありながら美しく見せてしまうところが、とても好きで。

残酷さの中に不思議な美しさがある。自分自身、昔から江戸川乱歩が好きということもあり、その点に強く惹かれました。

また、歌舞伎でも人間の業や死を描いた作品に触れてきました。そうした題材を“様式美”の中で美しく見せる伝統は歌舞伎にもありますから、自分が大切にしてきた世界とどこかでつながっていると感じられるものもありました。意外と想像できる部分や好きだなと思える部分があったのも、大きかったかもしれません。

──原作でも詳細に描写されていますが、“人間標本”のシーンは映像で見るとより一層のインパクトがありました。撮影現場はどのような感じでしたか?

あの撮影は忘れられません。山奥のロケで、寒い季節に大きなアクリルケースが6つ並んでいて、その中に入るんです。パンツ一丁で(笑)。見た目はかなりシュールで、笑ってはいけないのに思わず笑ってしまいそうになる瞬間もありました。

──みなさん、ご自身で“標本”を演じたのでしょうか。

“標本”の顔のアップは本人が演じて、それ以外は人形だったのですが、その人形が本当にリアルなんです。僕自身の型をとって作ってあるので、手や足の質感までそっくりで。自分の亡骸を目の前にしたような、不思議で、ちょっと奇妙な感覚がありましたね。

歌舞伎では“早替り”のために顔の型を取ることは経験がありますが、全身の型取りは初めてでした。完成した人形を見たときは、まさに命が閉じ込められているように思えて。ただの人形なのに躍動感が残っているんですよ。あの現場でしか得られない貴重な体験でしたね。

父や先輩と常に比べられる歌舞伎俳優の宿命

──今回の作品では複雑な親子関係が描かれています。

至と父親の史朗は、お互いに確かに愛情を持っています。でも、愛情があるからといって必ずしも関係がうまくいくとは限らない。強い思いがあっても、かみ合わずにすれ違ってしまうことがあるのだと、この作品を通して改めて感じました。

──芸術家の血を受け継いでいるという設定が、より一層親子の関係を複雑にしています。

至と父親のように愛情を持ちながらも、どうしても交わらない部分があるという複雑さは親子だからこその難しさだと思います。

自分自身も、歌舞伎の世界で父や先輩方と日々向き合っています。尊敬しているからこそ越えられない存在でもあるし、一方で「自分なりの結果を残したい」という思いもある。世間からは常に比べられる立場ですが、その宿命の中で自分の答えを探していくしかない。

だから、作品に登場する父子の関係には強く共感しました。ただ、僕自身は教わる立場でありながらも、役者として「こうしたい」「これが正しい」と思う主体性を持つことの重要性を認識しています。全部受け身だけでもダメだと思うので。

──“美”に対する感覚や執着というのも本作のテーマのひとつです。染五郎さんご自身が最も“美しい”と感じるものとは?

やはり満員の客席です。舞台に立つとき、客席がびっしり埋まっている光景ほど圧倒されるものはありません。特にコロナ禍で公演が中止になり、再開しても一席置きでしか座れなかった時期を経て、久しぶりに満員の景色を見たときの感動は忘れられません。「これは当たり前ではないんだ」と強く実感しました。あの瞬間の美しさは、舞台に立つ者にしか味わえない特別なものだと思います。

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