舞台では一瞬でも“市川染五郎”に戻ってはいけない
──そんな満席の客席から視線を集められている染五郎さんですが、舞台上で美しくあるために心がけていることとはありますか?
歌舞伎は“様式美”が大きな特徴です。人間的な生々しさよりも、計算された形の美しさを追求する。その上でにじみ出るものがあってこそ成立すると思っています。
だからこそ、一瞬でも“市川染五郎”に戻ってはいけない。舞台では常に役として存在し続けることが必要です。隙を見せず、役に集中することで初めて観客に“美しい”と感じてもらえる。これは僕が舞台に立つうえで一番大切にしていることですね。
──では、逆にリラックスできる時間は?
車の運転です。移動のときに自分でハンドルを握り、ひとりになれる時間が一番の息抜きですね。音楽を聴いたり、セリフを覚えたり、その時間は自分にとって大事なリフレッシュです。舞台では常に役として集中していますが、運転しているときは素の自分に戻れる。本当に落ち着ける時間です。
──初めての現代劇ドラマへの出演を今振り返ってみると、どんな経験だったでしょうか。
正直なところ、初の現代劇という点はあまり意識していなかったですね。すべてはお芝居であり、表現方法が異なるだけだと捉えているので。新たな挑戦のひとつというイメージです。
ただ舞台はその瞬間をお客様と共有できますが、映像は“過去の自分”をお客様に見られることになること。これがとても不思議で、違和感があります。
というのも、完成した作品を観ると「今ならもっとできるのに」と思ってしまうんですよ。やり直せないことへの悔しさは残りますが、それも映像作品の宿命ですね。もちろん、その時点の自分の全力を込めたものであることに変わりはないのですが、今後も映像に挑戦していくうえで、この感覚はずっとついて回ると思います。
──来年は舞台『ハムレット』の上演が控えています。
役者としてやっぱり常にたくさんの引き出しを持っていたいので、その引き出しを増やすという意味で、他のジャンルのお芝居や経験したことのない環境で演技をするというのは、とても大事だなと思っています。
また、自分以外の方のお芝居をたくさん見るというのは本当に勉強になるんですよね。こういうやり方もあるのだとか、自分だったらこう演じるけども、こういうパターンもできるんだとか、そういう発見があり得ます。お芝居って、本当に正解はないと思います。だからとにかくいろんなバリエーションに触れて、その中で自分のいいと思ったものを自分のものにしていきたいです。
取材・文/今祥枝 撮影/石田壮一

