2025年度(1月~12月)に反響の大きかったスクープ記事ベスト10をお届けする。第7位は、26年前に名古屋市で主婦が殺害された事件について、なぜ捜査がここまで難航したのかについて取材した記事だった(初公開日:2025年11月11日)。
1999年に名古屋市西区のアパートで主婦、高羽奈美子さん(当時32)が殺害された事件は、愛知県警が奈美子さんの夫・悟さん(69)の高校時代の同級生で同市港区のアルバイト、安福久美子容疑者(69)を殺人容疑で逮捕したことで、26年ぶりに解決へ向け動き始めた。
事件現場には有力な手掛かりとなる犯人の大量の血液が残されていたのに捜査が難航したのはなぜなのか。
捜査本部は当初“人違い殺人”を疑っていた
1999年11月13日の昼すぎに、3階建てアパート2階の自宅で首を切られている奈美子さんが見つかった。直後から取材に当たった事件記者が振り返る。
「アパートの大家でもある奥さんが全部で6部屋ある住民に柿をおすそ分けに回っていたんです。午後2時半ごろ、高羽さんの部屋に声をかけたところ、返事がないのでドアを開けると、台所で倒れた奈美子さんの足が見えたそうです。
顔の下あたりに新聞紙ほどの広さに血が広がっていて、救急車を呼んだと言ってました。刃物で切られたとは思わず、血を吐いたと思ったそうです。そのそばには当時2歳だった長男の航平君がおとなしく座っていたといいます」(記者)
Gパンにトレーナーという屋内着だった奈美子さんは救急隊員が現場で死亡を確認。室内は物色された形跡はなく、愛知県警西警察署捜査本部は殺害自体が目的だったことに重点を置いた。だが、「怨恨」と「通り魔」のどちらの筋からも有力情報はなかった。
「高羽さん夫婦は事件の約4年前にアパートが新築された時に新婚で入居してきました。事件があったのは土曜日でしたが悟さんは出勤日で朝から家を出ていました。
捜査では奈美子さんは社交的で友だちが多いことがわかり、恨みがありそう人物は悟さんの知人も含めて全然浮かんでこないと刑事らはぼやいていました。
捜査本部は“人違い殺人”まで疑い、隣室の住民に狙われる事情がないか調べたほどです。奈美子さんが内側からカギを開けたとみられることから通り魔も考えにくく、動機面から容疑者にたどり着けなかったんです」(前出・記者)
雨で血痕が流れてしまい…
いっぽう現場には重要な証拠が残っていた。現場付近で不審な女が目撃されたほか、玄関や約500m離れた公園に奈美子さんとは違う人物のB型の血痕 があったのだ。
「犯人は刃物で自分も切り傷を負ったとみられ、公園の水飲み場で血を洗い流した形跡がありました。落ちていた血の量は多く、犯人は大量に出血する傷をタオルかハンカチで押さえたものの、血に浸ったタオルからしずくがボトボト落ちるような状態で移動したとみられました。
このため公園で血を洗った後も出血は続き、逃走経路に血痕が残っている可能性が高いとみられました」(同)
血痕が路上などに広く飛び散っている場合、血液成分に反応して青白い光を放つ「ルミノール」という試薬を噴霧して血を探す「ルミ検」と呼ばれる鑑識手法がある。
発光強度が微小なため夜にしかできないこの手法で捜査本部は、公園からどの方向へ犯人が逃げたかを調べようとしていた。だが、ここで捜査はつまずいたという。
「事件翌々日の11月15日に雨が降ったんです。降り止んだ後にルミ検が行なわれたようですが、結局血痕は見つけられなかった。
公園のそばで犯人が車に乗るなどして血痕がその先に続いていなかったことも考えられますが、雨で洗い流された可能性が高いと捜査幹部らも考えていました。いずれにせよ鑑識活動を尽くしきれなかったわけです。
事件から2日間もルミ検を行なわなかったのは、捜査の手のうちを記者に知られたくない捜査幹部が遅らせたからではないかとの見方までありました」(同)
それから四半世紀を超える時間が流れた。航平さんと共に別の家に引っ越した後も、悟さんは犯人が捕まった時に現場検証を行なえるように現場の部屋を借り続け、支払った家賃の総額は2200万円を超えた。
さらに悟さんは殺人罪の時効撤廃を求め、2010年の刑事訴訟法改正では時効の撤廃が実現した。

