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前例が少ない日本人内野手の“メジャー挑戦”――村上宗隆、岡本和真の渡米1年目の「合格ライン」を考える<SLUGGER>

前例が少ない日本人内野手の“メジャー挑戦”――村上宗隆、岡本和真の渡米1年目の「合格ライン」を考える<SLUGGER>

村上宗隆内野手のメジャーリーグ(MLB)移籍が間近に迫っている。実現すれば、村上はポスティング制度を経てのMLB移籍になるが、今オフは他にも、岡本和真内野手、今井達也投手、高橋光成投手の三人が、同制度によるMLB移籍を目指している。

 日本プロ野球出身の選手が4人同時にメジャー契約を交わすことができたなら、2008年の黒田博樹(当時ドジャース/敬称略)、福留孝介(同カブス)、小林雅英(同インディアンス=現ガーディアンズ)、薮田安彦(同ロイヤルズ)、福盛和男(同レンジャーズ)以来、実に17年ぶりだ。日本人野手が複数名、メジャー契約することができれば、20年の秋山翔吾外野手(レッズ)と筒香嘉智内野手(レイズ)以来6年ぶりのこと。01年にイチロー(マリナーズ)、新庄剛志(メッツ)が史上初の日本人野手のMLB移籍を実現して以来、四半世紀でわずか通算3度目という希少な出来事になる。

 特筆すべきは、日本人内野手2人の同時移籍だろう。

 前出のイチローと新庄をはじめ、数多くの日本人野手がMLB、あるいは米球界へ移籍してきたが、内野手の前例=サンプルは投手に比べると極端に少ない。メジャー契約/マイナー契約、メジャー昇格の有無に関係なく、日本人野手のMLB球団への移籍例とまとめると、以下のようになる。
 2001年 イチロー(マリナーズ)、新庄剛志(メッツ)
2002年 田口壮(カーディナルス)
2003年 松井秀喜(ヤンキース)
2004年 松井稼頭央★(メッツ)
2005年 井口資仁★(ホワイトソックス)、中村紀洋★(ドジャース /マイナー契約)
2006年 城島健司(マリナーズ)
2007年 岩村明憲★(レイズ)
2008年 福留孝介(カブス)
2011年 西岡剛★(ツインズ)
2012年 青木宣親(ブルワーズ)、中島宏之★(アスレティックス)、川﨑宗則★(マリナーズ/マイナー契約)
2013年 田中賢介★(ジャイアンツ/マイナー契約)
2020年 秋山翔吾(レッズ)、筒香嘉智★(レイズ)
2022年 鈴木誠也(カブス)
2023年 吉田正尚(レッドソックス)

 内野手は★印で記した通り、松井稼を皮切りに井口、中村、岩村、西岡、中島、川﨑、田中、筒香と野手全体のおとそ半数を占める(田中や筒香は出場機会を求めて外野も兼任している)。内野手が2人同時にMLB球団へ移籍したのは、05年の井口と中村、12年の中島と川﨑があったが、過去2度の事例では2人の明暗がはっきりと分かれた。

 2005年の井口は、盗塁やエンドランなどの小技を絡める「スモールボール」で有名だったオジー・ギーエン監督と野球観が合致。長打偏重打線の中で自己犠牲を払いながら、ホワイトソックスの88年ぶりのワールドシリーズ優勝に貢献した。フィリーズ時代の08年には正二塁手チェイス・アトリーの怪我の穴埋めを見事に果たしてリーグ優勝に貢献するなど、短い実働期間の中で目立った活躍を見せた。

 一方の中村はドジャースとマイナー契約を結び、開幕マイナーを宣告されるも、故障者に代わってメジャー昇格した。ところが、わずか1ヵ月足らずで40人枠から外され、ウェーバー公示後、獲得球団が現れなかったため、傘下のマイナー球団へ降格。そのまま再びメジャーへ昇格することなく、日本球界に復帰している。 12年の川﨑は尊敬するイチローを追ってマイナー契約でマリナーズと契約。オープン戦で結果を残して開幕メジャーを勝ち取った。その年のオフにブルージェイズとマイナー契約を交わして再びメジャー昇格を果たすと、サヨナラ打を放った直後のヒーローインタビューで人気が爆上がり。MLBネットワークの名物番組に出演するほどのカルトヒーローとなった。

 一方の中島はメジャー契約でアスレティックス入りするも、オープン戦で故障するなどして結果が残せず。開幕をマイナーで迎えると、そのまま2年間で一度もメジャー昇格へすることなく、日本球界に復帰している。

 日本人選手が少なかった頃は「メジャー挑戦」、成功例が増えた昨今は「メジャー移籍」と表現してもいいと思うが、もちろん、全員が「成功」したわけではない。その後の野球人生にはプラスになっているはずなので、「失敗」とは表現したくないが、「活躍できなかった選手は多く、村上や岡本の行く末も気になる。

 村上と岡本が三塁をやるのか、一塁を守るのか、あるいは指名打者になるのかは現時点では不明だが、ここではよく言われているような、人工芝の多い日本のプロ野球から天然芝の多いMLBへの適応や、総体的に高い打球速度への対応ということではなく、守備を度外視した打撃成績について考えたい。

 昨季、打撃の主要3部門とOPS(出塁率+長打率)で、規定打席に到達してMLB最高成績を残した三塁手は以下の3人だ(太字が新人最高)。
 アレック・ボーム(フィリーズ)
打率.287★ 11本塁打 59打点 OPS.740

エウヘニオ・スアレス(ダイヤモンドバックス/マリナーズ)
打率.228 49本塁打★ 118打点★ OPS.824

ホゼ・ラミレス(ガーディアンズ)
打率.283 30本塁打 85打点 OPS.863

 3人ともタイトルこそ獲れなかったが、ナ・リーグMVPのドジャースの大谷翔平選手が打率.282、55本塁打、102打点、OPS1.014だったことを考えれば、彼らの成績が(大谷の驚異的なOPSは別にして)いかに突出していたのかが分かる。一塁手では今オフ、メッツからFAになってオリオールズと契約したピート・アロンゾが、38本塁打、126打点。OPSではア・リーグ新人王のニック・カーツ(アスレティックス)が1.002と飛び抜けた成績を残しており、DHでもカイル・シュワバー(フィリーズ)が56本塁打、132打点。OPSでは大谷が1.014と他の追随を許さない数字を残しており、1年目の村上や岡本にいきなりそのレベルを求めるのはフェアじゃない。むしろ参考になるのは昨季、活躍した新人選手たちである。

ケイレブ・ダービン(ブルワーズ)
打率.256 11本塁打 53打点 OPS.721 

マット・ショウ(カブス)
打率.226 13本塁打 44打点 OPS.689

 MLB関係のメディアでは、日本プロ野球で活躍したスター選手をFAと表現することが多く、新人と比較することに異論を持つ人もいるだろう。しかし、1年目に限ってはダービンらの成績を参考に、その成否を考えた判断した方が良いのではないかと思う。 100試合以上に出場した新人一塁手の中では、打率.290、36本塁打、86打点で新人王を獲得した前出のカーツを別にすれば、コディ・メイヨ(オリオールズ)の11本塁打、OPS.687、エリック・ワガマン(マーリンズ)の53打点が最高だった。指名打者は同ポジションで出場した試合数が少ないので比較し難いのだが、本来は捕手のアグスティン・ラミレス(マーリンズ)が出場63試合で14本塁打(捕手としては73試合で7本塁打)、38打点(同28打点)、OPS.780(同.627)が「好成績」と呼べるレベルにある。

 つまり、とても乱暴な表現をすれば、村上や岡本が来季=MLB移籍初年度で打率.256、13本塁打、53打点、そしてOPS.721ぐらいであれば、それはもう充分「成功」と呼べるのではないか。加えて列挙しておきたいのは、過去にMLBに移籍した2人の日本人選手の1年目の成績だ。

岩村明憲(07年)
打率.285 7本塁打 34打点 OPS.770

鈴木誠也(22年)
打率.262 14本塁打 46打点 OPS.770

 村上にとって「ヤクルトの先輩」にあたる岩村は2年目の08年に二塁手に定着してレイズの初優勝に貢献しているが、MLB移籍当初は村上と同じ三塁手だった。一方、岡本と同じ「右打者」の鈴木誠也はこの成績を「出発点」として、4年目の昨季、32本塁打&103打点という、日本人右打者のシーズン最高成績を更新し、「大谷以外」の日本人メジャーリーガーで近年最も成功した野手となった。 そう考えるとやはり、村上も岡本も打率.250前後で10本以上の本塁打を放ち、50前後の打点を稼いで、OPSが.750以上あれば、「1年目」の成績としては充分。すべての部門じゃなくとも、鈴木のように2年目以降に成績が向上すれば「成功」と言えるのではないか。

 忘れてはならないのは、今ではMVPを獲得するのが当たり前のようになっている大谷だって、1年目のオープン戦では苦戦したことだ。短期間で適応してしまったので、強調されることはないが、その後も怪我と格闘したり、競争力のないチームでプレーする辛酸を味わいながら「今」がある。彼を「別格」と定めるなら、歴代最高の「日本人右打者」となった鈴木がそれに見合う成績を残しながら、今も自身が望む理想と闘い続けている方が、村上や岡本にとってはリアルな「見本」となると思う。

 村上と岡本が挑むのは、前例が極端に少ない日本人内野手としてのメジャー移籍である。簡単にはいかないだろう、という予想は仕方ないし、それゆえに「メジャー挑戦」という古の常套句を使いたくなるぐらいだ。今はただ彼らに最適解の移籍先が見つかり、長い目で見守っていけるような環境が整うことを願うばかりである――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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配信元: THE DIGEST

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