鍋が美味しい季節になってきた。しかし今、Xに投稿されたあるポストをきっかけに、鍋を巡る大論争が巻き起こっている。それは、「生肉をつかんだ箸を鍋の汁に突っ込んで消毒するのはアリかナシか」という“菜箸消毒論争”である。どっち派が多いのか街の声を調査するとともに、「本当に衛生的に大丈夫なのか」を専門機関に取材した。
「わざわざ菜箸分けるのって、めんどくさくないですか?」
12月15日、とあるユーザーのXのポストが話題になった。
「生肉触った菜箸を鍋に突っ込んで殺菌する人みんな友達」
これには「みんなやってたんだね、自分だけかと思った」「火を通しちまえばこっちのもんよ」「むしろ洗うよりも安心感ある」という共感の声が集まった。
しかし、逆に「甘く見過ぎやで」「めちゃくちゃヤバいです」「別の箸にかえたらいいだけじゃ」という否定的な声も多く見られ、X上で大論争となった。
いったいどっち派の人が多いのか。そこで集英社オンラインは都内の老若男女に「生肉をつかんだ菜箸を調理中の鍋の中で熱消毒するのはアリかナシか」の街頭アンケートを行なった。
一人暮らしのサラリーマンの28歳の男性は、「別に違和感もないし、自分もやっている」と語る。
「わざわざ菜箸を分けるのってめんどくさくないですか? 洗い物も増えるし。生肉に食中毒のリスクがあるといっても、鍋で加熱しているわけだから、菌もウイルスもなくなると思いますけどね。だから別に違和感もないですね。でも肉そのものがちゃんと火が通っているかは気にします。豚や鳥は特に怖いですからね」
50代の主婦の女性はこれまで食中毒になっていないから大丈夫だと語る。
「これまで家でも外食でも家族で鍋を囲む機会はありましたが、わざわざ肉とほかの食材で菜箸を替えたりとかはなかったですよ。具材はすべて一緒の菜箸を使っていましたし、そこからみんな自分の器によそって食べています。でも今まで誰かがおなか壊したことなんてないです。消毒しているつもりで鍋につけることはないですけど、結果的に熱々のお鍋で消毒できているんじゃないですかね?」
アリ派の人たちも、食中毒リスクのある食材を取り扱った器具は殺菌・消毒が必要という認識を持っており、鍋の汁の熱でそれができるという解釈をしていた。
一方、ナシ派の意見としては、食中毒リスクをできるだけ避けたいという意見が多かった。23歳の一人暮らしの男性は自身の過去の食中毒の経験から、自炊の際は工夫を施すようになったという。
「僕は鍋ではないんですが、串焼きの店で生焼けのレバー串にあたったことがあります。ですからそれ以降食中毒には気を付けていますね。自炊で肉を調理した後にはまな板や包丁に沸騰したお湯をかけますし、そもそも肉を使った料理をするときは割り箸を使いますね。割り箸なら使った後にそのまま捨てられますし、大量に入ったものが100均で買えます。100円で食中毒が防げるなら無駄な出費とも思いませんしね」
30代の教育関係に勤める女性は、子育てをするようになって子どもが口にするものへのリスクについて考えるようになったという。
「この件に限らず、生肉を切ったまな板をどう扱うかみたいな話もSNSのママ世代で盛り上がりを見せていますよね。正直私も以前までは全く気にしてはいなかったんですが、子育てをするようになってから意識するようになりました。大人と子どもでは免疫力も違いますから、食材の扱いもそうですし、衛生面については特に意識するようになりましたね」
「鍋の汁でも消毒ができる」とする意見と、食中毒リスクを徹底的に排除したいという意見がある中、専門機関の見解はどうなのか。東京都健康安全研究センターの担当者に話を聞いた。
「加熱中の鍋の汁で熱消毒は……」
東京都健康安全研究センターの担当者はこう解説する。
「加熱している鍋の汁に菜箸を入れることが熱消毒の役割を果たすという認識は全くありません。生肉には基本的に食中毒リスクがある細菌やウイルスが付着しています。ですので、基本的には菜箸もそうですし、まな板などの調理器具も生肉用とほかの食材用で分けてほしいというのが我々の立場です」
加熱中の鍋の汁では熱消毒ができているとは言えないと語る担当者に、食中毒リスクを減らすための具体的な方法をきいてみた。
「鍋は菜箸を分けてください。生肉を扱った菜箸は、後片付けのとき基本的には洗剤と水で洗ってもらって構いません。さらに洗剤を流した後に熱湯をかけると、最も消毒効果があると言えます」
さらに、肉の種類によって食中毒リスクに差があるのかを尋ねたところ、世間の誤った認識についてこう警鐘を鳴らした。
「どのお肉が安全で、どのお肉が危ないということはないです。『牛肉は多少赤くても大丈夫』『豚肉は十分火を通す必要がある』みたいなことを言われる方が多くいますが、基本的にどのお肉にも食中毒になる恐れのあるウイルスや細菌が付着しています」
では、肉を食べるにあたって食中毒のリスクを抑えるためにはどうすればよいのだろうか。担当者はこう続ける。
「肉自体の加熱においては、厚生労働省が『75℃以上で1分間相当』加熱するという指針を示しています。しかし、それが広く周知されているかというと、そうではないのが現状です。十分に加熱をして食べてほしいと思います」
年末年始、家族や友人と鍋を囲む機会も多くなる。面倒でも、肉を取る菜箸とお皿に取り分ける菜箸は別にし、お肉自体も十分加熱したほうが良さそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部

