
プロ内定の181センチCBがボランチで新境地開拓。理想像は遠藤航。「圧倒的な守備力、攻撃にも参加できる選手」を目ざして
8月6日、川崎フロンターレU-18に所属するDF林駿佑の2026年からのトップチーム昇格が発表された。
今年の川崎U-18でキャプテンを務める林は、181センチのサイズを誇り、ボール奪取や球際の強さ、コーチングなどで周りを統率できるキャプテンシーが魅力のCBだが、最近はボランチでのプレーが増えている。
きっかけはトップチームの練習参加だった。
「理由はトップチームに怪我人が多いという事情もあったので、正直分からないところはありますが、将来のためにセンターバックだけではなく、ボランチを試してもらったと受け止めています。僕の中でもこの身長(181センチ)を考えると、センターバック一本ではなく、ボランチもできるようにならないと生き残っていけないと感じています。
現時点ではどちらをやりたいかは明確ではないですが、どっちもできることにこしたことはないので、もっともっと両方のレベルを上げていって、価値の高い選手になっていきたいと思っています」
ボランチのポジションは刺激でしかなかった。一番感じたのは、その難易度だった。
「守備のところでは対人やボール奪取力、空中戦はセンターバックでやっていた部分を出せるのですが、ボランチの方がセンターバックより前にチャレンジする要素が強く、ボールを奪った先、攻撃に切り替わった先の部分で、まだまだ視野が狭くて後ろから来ている相手を見えていないことや、周りの状況把握など、攻撃の部分はもっと改善点が多い。センターバックより多方向からプレスやボールが来るので、それをどう剥がしていくかというところは、まだまだ課題だと思います」
当然、慣れ親しんだ場所から慣れない場所に変わったことで戸惑いも多いし、必然的にいろんなミスも増えていく。
ましてや林がプレーしているのはトップチームで、周りには圧倒的な技術と視野を誇る山本悠樹、ずば抜けた危機察知能力とボールハント力を持つ河原創、豊富な運動量と技術と攻撃力が武器の橘田健人と、Jリーグでもトップレベルのボランチがずらりと揃える環境だからこそ、なおさらだ。
「トップチームは守備も攻撃もプレッシャーがものすごく速いですし、そのなかでボールを正確に扱わないと同じステージには立てない。守備のところでも奪えないというか、常に誰かから『見られている』という感覚になるんです。
自分の中では背後を取れたと思っても、実は相手の視野内にいる。僕が攻撃や守備のアクションをしても、常に相手に主導権を握られている感覚が、山本選手、河原選手、橘田選手などから感じられて、強烈な差を突きつけられた感覚になりました」
百戦錬磨。ただ奪う、仕掛けるだけではない。駆け引き、ポジショニングの部分で相手の掌の上に乗っけられている。新たなポジションでプロの厳しさを強烈に学んだ林だが、突きつけられた現実は、自分の伸び代であり、モチベーション向上に繋がっていた。
「プロの世界で上に行くための攻撃と守備の質をまざまざと見せつけられたからこそ、今、僕がボランチをやらせてもらっているのはチャンスだと捉えています。課題だらけだからこそ、もっと意欲的に取り組めば、成長角度もセンターバックをずっとやっているよりは、高まっていくのではないかなと思っています」
言葉の節々で感じたのは、ボランチへのコンバートを「やらされている」という表現ではなく、常に「やらせてもらっている」というポジティブな表現をしていること。前向きに、かつ貪欲な姿勢で向き合うことで、林は大きな成長のきっかけに変えようとしている。
夏休みが終わり、プレミアリーグEAST後期が始まると、ユースでもボランチが主戦場になっていた。プレミアEAST第14節の流通経済大柏戦でもボランチで先発すると、相手の強烈な攻撃陣に対し、得意の対人とボール奪取力を見せ、奪ったボールを周りに繋げて、素早い攻守の切り替えを生み出していた。
また、コンビを組んだ2年生MF小川尋斗の攻撃力を活かすべく、小川を積極的に前に行かせながら、自身は広範囲のスペースをカバーして攻撃を活性化。71分にはPKでゴールを決めるなど、4-1の大勝に大きく貢献した。
「イメージしたのは『掃除屋』というか、守備のフィルターになって、ボールを前に進ませないことを意識しました。あとは、声のところで周りを見て、センターバック、フォワードなど全体の立ち位置をコントロールしながら、チームの統率というところを意識しました。課題は多いですが、守備は自信を持ってできました」
そして今、林には目標とするべき選手が新たに存在するようになった。
「本当に理想像ですけど、遠藤航選手ですね。圧倒的な守備力があって、攻撃にも参加できる選手ですし、あとはセンターバック、サイドバック、アンカーなどもできる。どれもハイレベルなユーティリティ選手ですし、身長がそこまで高い選手ではないですが、あのプレミアリーグでヘディングにも競り勝っていて、遠藤選手から学ぶべきところは多いので目標としています」
置かれた場所で力強く咲く。林駿佑はトップ昇格が決まったことに胸を撫で下ろすことなく、新たに出来た大きな壁に対して、勇敢に、かつポジティブに立ち向かっていく。
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)
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