“光の処方箋”は現実になる?

今回の研究により、日中に自然光を取り入れることで2型糖尿病患者の血糖値がより安定する可能性が示されました。
言い換えれば、普段どんな光を浴びているかという環境要因が私たちの体の代謝リズムに影響を与えうるということです。
研究チームは「オフィスで自然光をほとんど浴びない状況は、それだけで代謝や糖尿病のリスクに影響するかもしれません。ですから可能な限り日中は日光を浴び、できれば屋外に出るよう心掛けてください」とコメントしています。
この発見は、普段見過ごされがちな建物環境(光環境)が健康に及ぼす影響を改めて浮き彫りにしました。
特に、自然光にアクセスしにくいオフィス空間が現代に広く存在していることに対し、研究者たちは警鐘を鳴らしています。
今後は、職場や家庭の照明環境において「いかに自然光を取り入れるか」が健康の観点からますます重要視されるようになるかもしれません。
とはいえ今回の結果は、少人数(13名)・短期間(数日間)の予備的なデータに過ぎません。
平均年齢70歳前後の高齢患者が中心であった点も含め、確かな結論を得るにはより大規模な研究が必要になるでしょう。
それでも、日常的な環境要因を見直すことで代謝疾患の管理にプラスの変化が起こり得ることを示した意義は大きいと言えます。
(※研究が掲載された論文誌もCell系の『Cell Metabolism』であることからも期待が持てます)
光は私たちにとって身近でコントロールしやすい要素です。
今後さらなる知見が蓄積すれば、建物の設計や働き方の工夫によって人々の健康を支える「光の処方箋」が実現するかもしれません。
もしかしたら未来の世界では、医師が患者に「窓際の席」を処方する日が来るのかもしれません。
元論文
Natural daylight during office hours improves glucose control and whole-body substrate metabolism
https://doi.org/10.1016/j.cmet.2025.11.006
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

