地元民に支えられての再スタート
「あわすのスキー場の復活を支援する会」を結成してから、松井さんがまずはじめにしたことは、ボランティアによる草刈りだった。
「とりあえずゲレンデの草を刈っておかないと、営業しようにもできねえぞということで、この歴史のある山に感謝する意味を込めて草刈りをしましょうと地元の新聞で告知しました。ごみ拾いと草刈りのボランティア募集ですね。ガソリンもないし、機械もない。道具は自分たちで持参してくださいと。集まって50人くらいかなと思っていたら、200人のボランティアが集まり、4ヵ月で延べ500人以上が集まってくれました」
松井さんは、いままで通り、東京から新幹線で行き来しながら、スキー場を見守ろうと思っていた。しかし、会社を早期退職することになる。
「ちょうど同じタイミングで、会社から和歌山へ行ってくれないかと転勤を言い渡されました。そのとき、神様っているんだなと思いましたよ。 俺に『やめれ』と言っとるんだと。スキー場の再建に情熱を注ぐ決心を固めました」
新しいワクワクをゲレンデに

2020年に行われた運転資金調達のためのクラウドファンディングでは、目標金額200万円に対して、429人から662万円の支援金が集まった。その大きな期待に答えるべく、松井さんは、毎日あわすのスキー場へ通い、客観的にお客さんの動線を見て、俯瞰的に観察し、既存概念をぶっ壊して、新しいことにトライしようと決意する。
「大事にしているのは、お客さん目線での運営です。自発的にお客さんに話を聞き、要望をすぐカタチにして、心をつかむようにしています」

「たとえば、開催日を特定して愛犬と一緒にリフトに乗って滑る『ワンワンパラダイス』をやっています。トリマーの知人にアドバイスをもらって、リスクマネジメントしながら進めています。

小型犬や中型犬は飼い主さんに抱っこして乗ってもらえるだろうから問題ないと思ったら、やり始めたら抱っこじゃ無理な大型犬も来る。チェアに乗せるために、その度リフトを止めないとならないわけですが、ほかのお客さんから文句が出ることはなく、逆にみんな見守りながらほっこりしていますよ」

このような、ユーザー目線でニーズをとらえ、新しいことに意欲的に取り組む熱い経営哲学が実を結び、昨シーズン(’24-25)は、過去15年間で最高の来場者数を記録した。


新しいことをするとき、人はできない理由から考え始めてしまう傾向にあるが、松井さんは、ポジティブに物事を捉え、できることからコツコツを進めていく。
シーズン終盤の3月平日は、経費節減のためにクローズしているが、1日だけナイターをやった。名付けて、「日本一薄暗いナイター」である。
「去年のように雪があれば、1時間でも2時間でも滑りたいお客さんがいらっしゃいます。だったら金曜日の夜7時から 11時ぐらいまでナイターでもやってみようと。で、やる前にSNS で公開したのは、悪いけど 51人以上じゃないとやらないよと。なぜかというと、照明となる工事用の電気ぼんぼりのリース代が5万1000円かかる。1人チケット 1,000円だから最低51人。

そうしたら100人もの応募がきたんです。同時に2,000円寄付してくれた人は、圧雪車でゲレンデトップまで連れて行って記念写真を撮影しますよ!という送迎サービスをやりました。
僕が圧雪車を運転して、19時から22時まで行ったり来たり。これは、明日の営業のためのピステンだから、時間と労力の有効活用なんですね。仕事中にお客さんを運んで写真撮ってあげているだけ。でも、お客さんにとって前年は雪不足で十分に滑れていないから、その 1 日が大事なんですよ。その日は一晩で、結構な来場がありましたね」
翌日営業した土曜日は、あいにくの土砂降りでお客さんは誰も来ず。ナイターやって良かったねーと、スタッフと笑い合ったという。
また、あわすのスキー場に行くには、クルマだけでなく、立山駅から電車とバスの公共交通機関でもアクセスできるが、昨シーズンは鉄道会社とタッグを組んで、リフト一日券大人4500円で、富山駅から往復できるプランを販売。富山駅からの交通費を実質無料にすることで集客を延ばそうという作戦も実行した。
暖冬の雪不足は、スキー場にとってもっとも大きな危機であろう。しかしそれは、知恵と工夫である程度は乗り越えられると自負している。
「去年(23/24シーズン)は、シーズン前からずっと暖冬だと言われていました。だから、除雪業者にお願いして、雪は一か所に集めておいてくれ、駐車場半分占めてもいいからと。 元旦は、その集めた雪を使って、なんとかキッズパークだけ営業していました。除雪費を雪つけに回す作戦です。そしたら、雪を見たことない外国人技能実習生が40人ぐらいやってきて、ウェアをレンタルして、写真を撮って遊ぶ。それだけでいいアクティビティになります」



