
つらい筋トレの最中や、思わず力を振り絞る瞬間に、つい口から出てしまう「汚い言葉」。
実はそれ、単なるストレス発散ではなく、本当に身体能力を引き上げている可能性があることが、心理学の研究から明らかになりました。
英キール大学(Keele University)などの研究チームによると、罵り言葉を使うことで、人は自分の限界を越えて、より長く、より強く力を発揮できるというのです。
研究の詳細は2025年の学術誌『American Psychologist』に掲載されています。
目次
- 罵り言葉で体の力が高まる?
- 実験で証明、「口汚くなる」とパワーアップする
罵り言葉で体の力が高まる?
この研究を主導したのは、英国キール大学の心理学研究者リチャード・スティーブンス博士です。
スティーブンス氏によれば、人は多くの場面で、意識的・無意識的に自分の力を抑えてしまっているといいます。
研究チームはこれまでにも、罵り言葉を使うと、氷水に手を浸し続けられる時間が延びたり、腕だけで体重を支える「チェア・プッシュアップ(椅子の座面に手をついた状態で腕立て伏せ)」を長く維持できたりすることを示してきました。
これらの結果は、複数の実験で繰り返し確認されており、偶然ではないとされています。
そこで今回の研究では、「なぜ罵り言葉が身体パフォーマンスを高めるのか」という心理的な仕組みに焦点が当てられました。
チームが注目したのは、「脱抑制」と呼ばれる心理状態です。
これは、社会的な遠慮や自己制限が弱まり、行動に踏み出しやすくなる状態を指します。
実験で証明、「口汚くなる」とパワーアップする
研究者たちは、合計192人の参加者を対象に2つの実験を実施しました。
参加者はチェア・プッシュアップを行いながら、2秒ごとに自分で選んだ「罵り言葉」または「中立的な言葉」を繰り返すよう求められました。
その結果、罵り言葉を使った参加者は、中立的な言葉を使った参加者よりも、有意に長い時間、自分の体重を支え続けることができたのです。
さらに、実験後の質問紙調査からは、罵り言葉を使った条件では、自信、心理的フロー、ポジティブ感情といった要素が高まっていることも分かりました。
研究者たちは、これらの心理状態の変化こそが、身体パフォーマンス向上の背景にあると考えています。
罵り言葉は、社会的なブレーキを一時的に外し、「考えすぎずに動く」状態へと人を押し出している可能性があるのです。
スティーブンス博士は、罵り言葉を「カロリーも使わず、薬も不要で、低コストですぐに使えるパフォーマンス向上ツール」だと表現しています。
もちろん、どんな場面でも使ってよいわけではありませんが、限界に挑む瞬間には、私たちの背中を押してくれる存在なのかもしれません。
今後は、人前でのスピーチや恋愛場面など、「ためらい」が成功を妨げる状況でも、同様の効果が見られるのかが検証される予定です。
思わず出たその一言が、実はあなたの力を引き出していたとしたら、少し見方が変わってくるかもしれません。
参考文献
Swearing Actually Seems to Make Humans Physically Stronger
https://www.sciencealert.com/swearing-actually-seems-to-make-humans-physically-stronger
How swearing makes you stronger
https://medicalxpress.com/news/2025-12-stronger.html
元論文
“Don’t Hold Back”: Swearing Improves Strength Through State Disinhibition
https://psycnet.apa.org/fulltext/2027-01514-001.html
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

