
狭き門でも欧州で指導者ライセンスを取得したい。かつて師事した指揮官に敬意「森保さんのマネジメントは面白い」【原口元気 独占インタビュー③】
今年9月からベルギー2部のベールスホットで戦っている原口元気。彼が再渡欧を決意したのは、もちろんプレーヤーとしてのキャリアを今一度、輝かせるためだが、「将来的な指導者ライセンス取得への布石」というもう1つの意味もある。それに向け、本人はアントワープ大学の英語クラスに週3回通って、英語力に磨きをかけている。
「まだ3~4か月ですけど、英語もだいぶ良くなってきて、日常的なコミュニケーションは問題ない。ただ、指導者レベルになると全然足りないので、英語でも講習を受けられるように準備しつつあるという感じです。
僕は2014年の夏にドイツに渡ってから長くドイツ語を学んでいたので、そのドイツ語に比べると簡単ではないように感じますけど、シンプルな言語なんで、ドイツ語ほど時間はかからないと思っています。
自分としては最終的にブンデスリーガとかに監督として戻りたいという目標があるので、ドイツ語もキープしつつ、3か国語でコミュニケーションを取れるようにしたい。そうすれば世界もかなり広がると考えています」と力を込める。
欧州において指導者ライセンスを取得中の元日本代表選手といえば、長谷部誠と岡崎慎司の2人が思い浮かぶ。
長谷部はすでにドイツサッカー連盟(DFB)のB+ライセンスを取得。現在は日本でJFA公認A級ジェネラル講習にも参加しており、最終的にProライセンスを日本で取るのか、ドイツで取るのかは未定だが、着々と前進はしている様子だ。
岡崎の方はレスター時代にプレミアリーグ制覇を達成した経験もプラスに働き、イングランドサッカー連盟(FA)の講習会に参加している模様だ。ただ、UEFA・Proは想像以上に狭き門。何年待ったらそこまで辿り着けるのか分からないレベルだという。
「僕自身に関して言うと、まだライセンス取得をスタートできていません。ベルギーはオランダ語でしか取得できないので、今の自分は受けられない。指導実践をする場所がないと受けることもないので、まずは指導を始めながら、どこで取るかをじっくり見極めたいと思っています。
指導についてはベールスホットから『ユースの指導をしてみないか』という話をもらっています。ただ、今は1歳半の息子がいて、手がかかるので、自分が年明け早々から夜も育成の指導に行ってしまうと、妻にかなりの負担をかけることになる。今はなるべく子どもとの時間を取りたいと思っているので、夏まではしっかり語学を習得して、夏から指導を始めて、ライセンスを取りにいくという流れがスムーズだと思います。
自分はブンデスリーガで100試合以上出場という条件をクリアしているので、ドイツならBライセンスから取りに行ける。そこで最初のハードルを超えれば、別の国で上位ライセンスを取ることも可能なんで、ベストな方法を見つけたいと考えています」と原口は近未来のビジョンを明かす。
今はまだ認められてはいないものの、日本のProとUEFAのProが互換性を持つように、日本サッカー協会がUEFAにアプローチを続けている。それが近い将来に実現すれば、日本で取得しても欧州で監督になる道は開ける。
しかしながら、原口はあくまでUEFA・Proを欧州で取ることに強いこだわりを持っている。
「浦和や神戸で仕事をしていたモラスさん(雅輝)に聞いたところ、彼自身も10年以上、UEFA・Proを待っている状態が続いているんだそうです。それだけ狭き門なのは事実ですし、本当に難しい世界なんだと痛感させられます。僕もどうにもならないということになったら次の手を考えますけど、今はその道に向かって進みたい。2026年から本格的にスタートするつもりです」と彼は目を輝かせた。
かつて浦和で共闘し、2018年ロシア・ワールドカップで共闘した先輩の槙野智章が藤枝MYFCの監督に就任することも良い刺激になるはず。本人からも連絡をもらっていたようだが、「日本は若い監督にチャンスを与える機会が少ないので、マキが結果を出して、ライセンス取得後、すぐにチームを持てる状況を普通にしていってほしい」と期待を寄せる。
「日本では代表レジェンドがあまり監督として成功していないかもしれないけど、海外では元スペイン代表のシャビ・アロンソ、ベルギー代表のヴァンサン・コンパニは成功している。日本もそうなっていくのが一番良いと思います」と原口は語気を強める。
目下、日本代表レジェンド指揮官で大成功している唯一無二の存在が森保一監督ではないか。「ドーハの悲劇」の生き証人はW杯こそ経験していないが、2018年の就任からの7年間で着実にチームを引き上げている。原口自身は22年カタールW杯落選の苦い記憶もあるが、「森保さんはマネジメント力がものすごくある」と舌を巻く。
「僕も長く一緒に仕事をさせてもらったので分かりますけど、選手の扱い方がすごく上手で、良い関係を築いていますよね。
僕の話もよく聞いてくれましたけど、『こういうやり方もある』と伝えると、柔軟に取り入れてくれることもありましたし、当時の横さん(横内昭展)、上野さん(優作)、斉藤さん(俊秀)といった人たちとディスカッションする環境も与えてくれました。
戦術面に関しても、良い意味で人に頼りながらチームとしてアプローチしている印象です。監督というのは1人ですべてをコントロールする必要はない。チームとして一体感ある集団を作ればいいので。そういう意味でも、森保さんのマネジメントは非常に面白いし、高い能力を持っていると感じます」と、原口はかつて師事した指揮官への敬意を口にする。
その森保監督が率いる日本代表は、半年後に迫った2026年北中米W杯でオランダ、チュニジア、ヨーロッパプレーオフB(ポーランド、スウェーデン、ウクライナ、アルバニア)勝者と同じF組に入った。勝点3を確実に取れる相手が1つもいないという意味で厳しいのは確か。それは原口自身も感じているところだ。
「僕がまず思ったのは、チュニジアが嫌だなと。2022年6月の大阪でのゲームで負けていますし、あの時もすごく嫌らしいチームだった。隙がなくて攻めにくいので、そこで勝点3を取りたいと思っているチームから見ると、嫌な相手なのは間違いないですね。
ワールドカップなんで難しいのは当たり前。ただ、確実に勝てそうなチームがありそうなグループとは違って、日本は厳しい組に入ったとは感じます。それでもガチンコでクオリティを出して戦ってほしい。賢いチーム運営のできる森保監督もいますし、何らかの解決策を見出して、確実に予選は突破すると思っています。
その次のラウンド32でブラジルかモロッコとの対戦が有力視されますけど、そこが山場かなと僕は見ています。それを突破できれば、本当に歴史を変えるような大会になると思う。今の日本代表はそれだけの実力がある。過去4回、ラウンド16まで行って負けた経験を活かす大きなチャンスですね」と、7年前にベルギーとの激闘を経験した原口は、その失敗や悔しさも含めて飛躍を遂げてほしいと強く望んでいる。
第二次森保体制でドイツ、ブラジルに勝利したことを踏まえても、日本がレベルアップしているのは事実。その中心的存在になっているのが、カタールW杯経験者の堂安律や久保建英だ。かつて共闘した2人の動向を原口は毎週末に必ずチェックし、自身の糧にしている。
「律のいるフランクフルトは近いので、できるだけ早く見に行きたいと思っています。今季の彼らは面白いサッカーをするし、律の活躍ぶりは素晴らしい。タケの方はチーム状態が少し厳しいですけど、本人のパフォーマンスは良いので、本当にワクワクしますね。彼らにはリスペクトしかないです」と笑顔を見せる。そんな原口の思いを彼らはしっかりと受け止め、半年後の大舞台でゴールやアシストという形で表現してくれるはずだ。
代表を離れて3年が経過し、プレー環境も2部リーグとなったが、原口は後輩たちに刺激を受けつつ、高みを追い求めているのは変わらない。35歳になる2026年は、クラブの1部昇格を目ざしながら、指導者への一歩を踏み出すことになると見られるが、彼らしく進化を遂げていってくれれば理想的である。
※このシリーズ了(全3回)
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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