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能登半島地震で家を失った44歳のひきこもり男性、避難所の仮設トイレに“死んでも行きたくなかった”ワケ…「正義なんかこの世にないんだと思った」【2025 ルポ・ひきこもりからの脱出記事 1位】

能登半島地震で家を失った44歳のひきこもり男性、避難所の仮設トイレに“死んでも行きたくなかった”ワケ…「正義なんかこの世にないんだと思った」【2025 ルポ・ひきこもりからの脱出記事 1位】

2025年度(1月~12月)に反響の大きかったルポ・ひきこもりからの脱出記事ベスト5をお届けする。第1位は、能登半島地震で家が半壊したことで、人生が思いがけない方向に向かったひきこもり男性の記事だった(初公開日:2025年4月27日)。

 

集団行動が苦手だった石尾大輔さん(44)は子どものころからいじめられていた。15歳で統合失調症と診断され不眠と幻聴、倦怠感に長く苦しんだ。大学卒業後、10年以上ひきこもっていたが、能登半島地震で家が半壊。支援者の呼びかけで広域避難したことをきっかけに、自立するまでを追った。(前後編の前編)

ひきこもっていた家を失い車中泊

石尾大輔さん(44)が10年以上ひきこもっていた自室を失ったのは2024年1月1日。その日、石川県珠洲市にある実家は、最大震度7の能登半島地震で中規模半壊した。

「正月なんで、食っちゃ寝しながら、茶の間でテレビ見ていたんです。前年から震度5らいの地震が何回かあって。またかと思っていたら、そのすぐ後にとてつもなくでかい地震が来るとは……。

もう、人生終わったかと思いましたね。地面が歪んでいるみたいな感じで、家具には転倒防止の金具を付けてあったけど、バッタバッタ倒れて、食器も本も何もかも落ちて来て、正直、何が起こったのか全然わかんなかった。もし、2階の自室にいたら、崩れ落ちてきた本の山につぶされて、ただじゃ済まなかったでしょうね」

石尾さんは、当時94歳の祖母と、両親、5歳下の弟の5人暮らし。祖母と母親を家の外に出した後、父親や弟と隣近所の家にも声をかけて、潰れた家から出られなくなっているお年寄りを助け出した。

停電して真っ暗な集落の様子を見て回っているとき、排水溝に左足を突っ込んでしまう。歩くたびにかかとに激痛が走ったが我慢するしかない。そのまま家族と自宅近くで、普通車2台に分かれて車中泊を1週間続けた。

「足は痛いし、寝られないし。もうみんなちょっとしたことでイライラしちゃって、罵声の飛ばし合いで、きつかったですね。汚い話ですけど、小はするけど、大きい方は1週間我慢したんです。友だちが野グソしているときマムシに噛まれたと聞いたことがあったので」

避難所になった地元の小中学校に行けば仮設トイレがあった。だが、石尾さんには行けない理由があったのだ。

「もう、メンタルはヤバかったけど、あんなとこ、死んでも行きたくなかった。あそこで、ある意味、僕の人生がめちゃくちゃになったんで」

小学校3年生で三島由紀夫を愛読していた

幼いころから石尾さんは音に対して過敏で集団生活が苦手だった。周囲に合わせることもできず、自分の好きな世界で生きていたという。

「昆虫が好きで図鑑はよく読んでいたけど、小学校に入ったときは何にもできなかったんです。協調性がなく、勉強もできない、スポーツもできない。能登の言葉で『だら』とバカにされたり、痩せていたんで『ガリ』ってからかわれたり」

友だちもおらず、長い休みになると母方の祖父母の家で過ごすことが楽しみだった。幼稚園の先生をしていた祖母は読書家で、特に好きなのは三島由紀夫。石尾さんも祖母の影響で小学校3、4年のころには三島の作品を読んでいたそうだ。

「意味はよくわかんなかったけど、すごい人と対話しているような感覚になったんで」

高学年になり勉強のコツをつかむと、国語や社会、理科の成績がぐんと伸びた。関西の中高一貫校に行きたかったが、車のディーラーをしている父親に「お金がかかるからダメだ」と言われ、地元の中学に進んだ。

みんなが自分の悪口を言っている

突然、いじめのターゲットになったのは、中学3年のときだ。

「こんなの嘘八百なんですけど、僕が女の子に酒とかタバコを勧めたとかって。何の根拠もない噂を流されて……。僕は成績もよかったし、意外と女子とも仲よかったんで、気に食わなかったんでしょうね。

いじめの加害者の1人が今、教師やっているんです。ほんで、いじめはよくないと言っているらしい(笑)。それを聞いたとき、正義なんかこの世にないんだと思ったし、すごく複雑でしたね」

石尾さんがいくら否定しても噂は消えず、眠れなくなった。学校ではみんなが自分の悪口を言っているように聞こえる。家でテレビを観ていても人の話し声が悪口に聞こえた。

不眠と幻聴はひどくなる一方だったが、いじめのことは親にも言えず、朝になると学校に行った。

「明らかに体調がおかしかったので、これはまずいなと思っていたんですけど、学校には行かないとダメだと。でも、そんなに嫌なら行かなきゃよかった。そうすれば、ここまで心が壊れることはなかったんかなと思いますね」

中学を卒業して精神科を受診すると統合失調症だと診断され、精神安定剤などを大量に処方された。

市内の高校に進学したが、中学時代のいじめの加害者と同じクラスになってしまい、1か月も経たずに行けなくなる――。

「もうダメだと思って、ゴールデンウイークに薬をたくさん飲んじゃって……。精神科の先生は激怒して、『高校なんか辞めちまえ』って。退院して、ひきこもり状態になって、留年です。1年遅れで2年生になって、あんまり行けなかったんですけど、なんとかお情けで卒業させてもらいました」

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