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「ひきこもりは人間としてはエラーなのか」人を殺さないようにひきこもった男性が経験した社会復帰への苦悩【2025 ルポ・ひきこもりからの脱出記事 4位】

「ひきこもりは人間としてはエラーなのか」人を殺さないようにひきこもった男性が経験した社会復帰への苦悩【2025 ルポ・ひきこもりからの脱出記事 4位】

2025年度(1月~12月)に反響の大きかったルポ・ひきこもりからの脱出記事ベスト5をお届けする。第4位は、7年間、家から一歩も出ずにひきこもった経験を持つ男性の苦悩を取材した記事だった(初公開日:2025年2月15日)。

 

18歳のときから7年間、家から一歩も出ずにひきこもった瀧本裕喜(ひろき)さん(44)。自分との対話を続けて、やっと部屋から出ることができたが、7年ぶりに鏡で見た自分の姿は変わり果てていた。社会復帰しようとアルバイトの面接を受けても断られてしまう。悩んだ末に、瀧本さんが見つけた「自分の経験を生かす道」とは――。(前後編の後編)

人を殺さないためにひきこもった

瀧本裕喜さん(44)が、ひきこもりから脱する初めの一歩は、わずかな生活音の変化に気づいたことだ。

瀧本さんがひきこもって以来、1人息子を刺激しないよう両親は静かに玄関を出入りしていたのだが、玄関の扉を開け閉めする音が、ひきこもって5年過ぎた頃から大きくなったのだという。

「ひきこもっている間は、聴覚がすごく鋭敏になったんです。名探偵コナン君の推理じゃないけれども、生活音が変わるのは、何かしら心境の変化があったはず。

僕がひきこもっていることを、両親は特別視しなくなったんだと思ったんですね」

また、ひきこもった当初はひきこもりの人を犯罪者のように扱う本がリビングに置いてあったが、時間が経つにつれ、生きづらさを抱えるひきこもりを理解しようとする本が増えてきた。

瀧本さんは本を手に取り、両親が心理系の勉強をしているのだろうと考えた。

両親の変化を肌で感じたことで、「自分も変われるかもしれない」と思い始めたという瀧本さん。ひきこもって7年目のある晩、こんな夢を見た。

「理想の自分と対話した夢です。理想の自分は、ひきこもっている僕を全肯定してくれました。この7年は一見、生産性がないように見えても、自分は殺意が暴走しないようにひきこもることを選択したんだ。

心がボロボロになっても、誰かを守るために最善を尽くしたんだ。そのように自分のことを認めたら、忍耐強くてカッコいいかもって(笑)。

夢を通して自分の思いが整理されて、それが、部屋を出るきっかけになりました」

「どうして裸なの?」と母に聞かれて

7年ぶりに洗面所の鏡で自分の顔を見ると、あまりの変わりように驚いて15分ぐらい固まってしまった。

髪は伸び放題で、25歳なのに長年のストレスのせいか白髪まである。体重計に恐る恐る乗ると、何回測ってもエラー。100キロを超えていたので測定不能だったのだ。

お風呂に入った後、タオルを体に巻き付けて、ずっと触っていなかったピアノの前に座る。

『エリーゼのために』『月光』『別れの曲』など慣れ親しんだ曲を弾いていると、母親が車で帰って来る音がした。いつもなら顔を合わせないよう、脱兎のごとく逃げてしまうのだが、そのまま弾き続けた。

母親はピアノを弾く息子を見ると、こう声をかけた。

「どうして裸なの?」

まるで昨日の会話の続きのようで、瀧本さんは自然に答えていた。

「太り過ぎて下着も服も入らないから、タオルを巻くしかない」

母親はすぐ父親に電話をかけて「裕喜が7年ぶりに話した! 1番大きいサイズの服と下着を買ってきて」と頼んだ。

「歴史的な出来事ぐらいな勢いで(笑)。親からすると、そうなのかと。本当は『もう、ひきこもらなくていいの?』と聞きたかったと思うんです。

だけど、それを言って、またひきこもったらマズいと考えて、次に気になったことを聞いたみたいです」

外に出て最初にしたのは、痩せるために真夜中に家の近所を歩くこと。お腹がつかえて自分では靴紐も結べず、母親が代わりに結んでくれた。

5分も歩くと息切れがして体が悲鳴を上げたが、じょじょに距離を延ばして行き、1年間で30キロ以上体重を落としたという。

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