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「ひきこもりは人間としてはエラーなのか」人を殺さないようにひきこもった男性が経験した社会復帰への苦悩【2025 ルポ・ひきこもりからの脱出記事 4位】

「ひきこもりは人間としてはエラーなのか」人を殺さないようにひきこもった男性が経験した社会復帰への苦悩【2025 ルポ・ひきこもりからの脱出記事 4位】

面接でババを引いたような顔をされた

体力が戻ったところで、コンビニのアルバイトに応募した。面接で7年間ひきこもった話をしたら、それまで和やかに話をしていた面接官が目も合わせてくれなくなったそうだ。

「ババ抜きでババを引いたような表情をしていました(笑)。面接官からすると、ひきこもりは、おそらく理解する材料が少ないので、どのように向き合えばいいのか分からなかったのだと思います。

でも僕は、ひきこもっている自分を認められたから外に出られたのに、社会復帰するならひきこもりを隠さないといけないのかと矛盾を感じました。

そのとき頭に浮かんだのは、体重計に乗ってエラーが出たときの映像です。ひきこもりは人間としてエラーなのかと思いましたね」

地元ではアルバイトが見つからず、名古屋まで行ってキャリアカウンセラーに相談したが、「前例がないので申し訳ありません」と丁重に断られた。

またいろいろな人から、「社会復帰するなら、ひきこもったことは絶対に隠した方がいい」とアドバイスを受けた。

27歳のとき、拠点を東京に移して祖母と2人で暮らし始めた。カウンセラーの資格を取れる学校に通うためだ。

だが、そもそも18歳で上京した際、祖母から愚痴を延々と聞かされたことで精神的にダメージを受け、ひきこもってしまったのだ。

そんな祖母の元に戻って大丈夫だったのかと聞くと、瀧本さんはあっさり言う。

「おばあちゃんの毒は相当強かったけれども、18歳のときみたいにグサッときたり、憎しみを感じることはなかったです。おばあちゃんはそう思っているんだね、みたいな感じで。

僕の盾が強くなったのかわからないですけど。あんなに悩んでいたのは何だったんだと思うぐらい(笑)」

東京に来てもアルバイトの面接が通らなかったので、苦し紛れに公園で悩み相談を始めた。

「悩み相談も含めて、どんな話でも聞きます」と書いたプラカードを持って公園のベンチに座っていると、珍しがって声をかけてくれる人が12分に1組くらいいたそうだ。

「女子高生は好きな人にどのように告白するか、お年寄りの方は余生をどう過ごすか、みたいな感じで。これをやり続けていれば、誰かとつながれるかもしれないと思ったけれども、半年後に管理局の人に『ベンチを占拠しないでください』と怒られてやめざるを得なくなったんです」

ひきこもりの経験は資産だ!

カウンセラーの仕事をしながら30代半ばでライタースクールに通い始めた。「表現力を磨いていけば周りに理解してもらえるのではないか」と思ったのだ。

事務局の人に「ひきこもりのことを発信してみたい」と伝えたところ、『ひきこもり新聞』、『不登校新聞』(24年に終了)という媒体につながりができて、自分の体験談などを書いた。

記事を書くとクレジットが残るので、編集者に名前を覚えてもらえる。少しずつ理解者が増えて、ひきこもりの家族会が発行する雑誌でもインタビュー記事などを書くようになった。

ただし、ひきこもり関連の媒体で記事を書いても、食べてはいけない。瀧本さんは、貸し会議室の管理の仕事をはじめ、いろいろなアルバイトをして生活費を稼いだ。

「バイトは信頼できる人の紹介だったので、ほぼ顔パスでした。ひきこもりでも特別視されず、むしろユニークでおもしろいと言われました」

ひきこもった話をあちこちで発信していたら、「おもしろいから講演をしてみたら」と勧められた。今では年に数回、ひきこもりの家族会や自治体などに招かれて、経験を話している。

「僕は、ダメダメな弱い部分を最初からさらけ出すんですよ。だから、瀧本裕喜という名前は忘れても、体重計のエラーとかババを引いた話、『どうして裸なの?』という話をした人だと覚えてもらえる(笑)。

親御さんからは『安心した』とよく言われます。ひきこもりから立ち直った直後の写真を見せると、『うちの子はここまでひどくない』って(笑)。

今までマイナスだと思ってモヤモヤしていたことが、話のネタや人とつながるきっかけになるんですね。瀧本さんは面接に落とされ続けたから、発想がユニークなんですねと言ってくれた方もいます。

おかげで、ひきこもりの経験は恥ずかしい黒歴史ではなく、資産なんじゃないのと発想を転換できたんです」

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