モハメド・ベン・スレイエムがFIA(国際自動車連盟)の会長に再選された。これは、2021年に就任したスレイエムが、最低でももう4年間は会長職を継続することを意味する。
現在64歳のベン・スレイエムは、FIAを率いる12人目の会長となるが、出馬の過程において対立する候補者がいないなか再選されたことから、多くの論争を巻き起こしている。
しかし、一部のFIA加盟クラブからは、ベン・スレイムに対する支持が依然として強い。では彼が就くFIA会長の職務内容と、その役職の歴史とはどのようなものだろうか。
■FIA会長の職務内容
FIA会長は、モータースポーツの統括団体の顔として、組織を率い、その傘下にある選手権に関するあらゆる事柄を監督する立場にある。
FIA会長になるには、4年ごとに実施される選挙に立候補する必要がある。投票権を持つのはFIA加盟クラブで、ロンドン王立自動車クラブ、キャンベラのオーストラリア自動車協会、オタワのカナダ自動車協会など6大陸にまたがるクラブが投票する。
FIA会長の任期は3期まで(最大12年)と定められているため、ベン・スレイエムは2029年に3期目を目指すことも可能だ。
選出された会長はFIAの運営を統括し、F1レースディレクター人事などあらゆる変更に決定的な影響力を持つ。
例えば2024年11月の衝撃的な発表で、FIAは当時レースディレクターを務めるニールス・ウィティヒが即時辞任すると発表した。これは会長との確執による解雇と見られている。
ウィティヒの後任にはF2レースディレクターのルイ・マルケスが就任。同時期にFIAは新たな「オフィシャル部門」を設立し、訓練を受けたレース関係者の育成ラインを開始すると発表した。この部門はベン・スレイエムが統括する。
つまり会長は、モータースポーツ発展のためのFIA主導の様々な取り組みを統括している。その他の取り組みには、2030年までのカーボンエミッションのネットゼロ達成目標、2026年F1への持続可能燃料導入、さらにはクランフィールド大学との提携によるモータースポーツエンジニアリング奨学金の授与などが含まれる。これらのプロジェクトはモータースポーツのピラミッド構造における様々な段階に位置している。
また、会長は広範な公的業務も担う。例えばF1開催週末には、トラックセッション終了後定期的にパルクフェルメに立ち、表彰台ではトップステップのドライバーに優勝トロフィーを授与し、レース前のグリッドでは関係者と交流したりしている。
ベン・スレイエムはFIA表彰式典の主催も担当する。この年次行事で各FIAシリーズの新たなチャンピオンを称え、会長はスピーチを行ない、トロフィー受賞者との記念撮影も行なう。
■FIA会長はF1に雇用されているのか?
F1はFIA会長を雇用している形ではない。F1の選手権自体がFIAによって認可されているに過ぎず、会長の人選や職務内容についてF1側に決定権はない。
■ FIA会長は、F1からカートレースに至るまで、FIAが統括するあらゆるモータースポーツシリーズに関与している。
現在FIAが運営するシリーズは50以上あり、そのうち7つが世界選手権と位置付けられている。F1、フォーミュラE、世界ラリー選手権、世界耐久選手権、世界ラリークロス選手権、世界ラリーレイド選手権、世界カート選手権の7つだ。
したがって、FIA会長はこれらのいずれのシリーズにも関与する可能性があり、最終的には当該選手権に関する決定事項について最終判断権を持つ場合がある。
■FIA会長の報酬はいくら?
FIA会長には給与が設定されていない。統括団体であるFIAは非営利組織であり、選手権に参加するチームからのエントリー料やスーパーライセンス料によって収益を上げている。
■FIA会長選挙が物議を醸した理由は?
ベン・スレイエムは2021年、対立候補のグラハム・ストーカー(得票率36.62%)に対し61.62%の得票率で当選したが、今回は無投票当選となった。当初こそ、2025年の会長選への立候補に関心を示した人物が数名いたものの、手続き上の様々な問題が生じたためだ。
最初の候補はWRCで2度の王者カルロス・サインツ・シニアで、出馬を検討していると表明したものの、最終的には見送った。次に元スチュワードのティム・メイヤー、スイス人レーサーのローラ・ヴィラール、ベルギー人ジャーナリストのヴァージニー・フィリポットが名乗りを上げたが、いずれも正式な立候補に至らなかった。
立候補には、FIAの6つの地域から副会長候補7名を選出し、うち2名は欧州出身者でなければならない。しかし南米地域からは、かつてF1を取り仕切っていたバーニー・エクレストンの妻ファビアナ・エクレストンが権利を持つ唯一の候補となっており、彼女は既にベン・スレイエムへの支持を表明していた。
このため、他の候補は3名とも副会長候補リストを完成させられず、必然的に大きな論争を引き起こした。例えば、メイヤーは辞退を表明した際、これを「民主主義の幻想」と呼び、南米の適格な副会長候補者たちが「立候補しないよう説得、圧力、あるいは何らかの約束をされた可能性がある」と示唆した。
一方ヴィラールは、このプロセスをめぐりFIAを提訴。パリの裁判所は12月3日、本格的な審理が必要と判断し、その審理は2月16日に実施されることとなった。したがって、会長選挙の無効化も可能性として残されている。
とはいえ、こうした結果に至ったことは驚くべきことではないと言える。というのも、4月にはロバート・リードがFIAスポーツ担当副会長を辞任しているからだ。彼は辞任理由として「ガバナンス基準の崩壊」と「適正な手続きを経ずに重大な決定がなされていること」を挙げている。

