繊細な「センサー」と異文化への憧れ
小泉八雲と水木しげる氏は、まだまだ共通点があります。八雲は16歳のときに怪我で左眼を失明しています。水木氏は21歳で太平洋戦争に出征し、ニューブリテン島で左腕を失っています。どちらも身体的なハンデキャップがあったわけですが、常人以上に不思議なものを感じ取る敏感なセンサーが働いていたようです。
八雲はギリシャ、アイルランド、米国……と、さまざまな国をめぐり、最後に日本という異境の地に魅了されることになります。異人である八雲を親切に受け入れてくれたセツたちに、八雲は心を開いていったのです。
水木氏は戦場となったニューブリテン島で、トライ族の人たちと親しくなります。他の日本兵たちと違って、威張らない水木氏のことを、トライ族の人たちは温かくもてなします。終戦となり、日本に帰国する際、水木氏は島に残るかどうかでずいぶん悩んだそうです。
八雲も水木氏も、文化の異なる土地の人たちと打ち解ける「オープン・マインド」の持ち主だったと、先述の『異界の歩き方』では述べられています。
「タタラ製鉄」をめぐる妖怪伝説
妖怪好きな人気作家として、もうひとり名前を挙げたい人物がいます。アニメーション作家の宮崎駿監督です。劇場アニメ『となりのトトロ』(1988年)や『千と千尋の神隠し』(2001年)など、人間ならざるものたちが活躍する物語を数多く発表しています。
とりわけ注目したいのは、4Kデジタルリマスター版の上映で再び話題となった『もののけ姫』(1997年)です。『もののけ姫』の主舞台となった「タタラ場」ですが、奥出雲には中世時代から「タタラ製鉄」があったことが知られています。
製鉄には大量の木炭と砂鉄が必要なため、「タタラ製鉄」があった場所の周辺の森は次々と伐採され、山も崩され、そのことから「ダイダラボッチ」と呼ばれる巨人伝説が生まれています。また、製鉄作業中に火傷で目を負傷した職人たちが少なくなく、「一つ目小僧」の言い伝えが広まっています。
宮崎駿監督も、目には見えない世界を信じている作家のひとりではないでしょうか。『ばけばけ』のヘブン先生もトキも、怪談話に耳を傾けることで心の安らぎを感じています。妖怪たちの存在を信じることで、私たちが今いる場所もぐんと世界が広がっていくのかもしれません。
