「職業としての将棋棋士」
青野照市/1078円・小学館新書
A級在籍11期、通算800勝を成し遂げ「中高年の星」と呼ばれた元プロ棋士の青野照市氏。昨年、50年にわたる現役生活に幕を下ろした著者が、自身の半生から羽生善治や藤井聡太の強さの秘密、さらには将棋界の裏側をリアルに語る。
魚住 私の父は将棋が大好きで、幼い頃に教えてもらった思い出はあるのですが、自分で指したことはあまりないんです。でも、将棋の世界にはとても興味があるので、今日はお会いできて、とてもうれしく思います。
青野 ありがとうございます。昔は9割以上が男性ファンでしたが、今は対局を見るだけではなく、特定の棋士を応援するなど、女性ファンも増えました。
魚住 羽生善治九段が脚光を浴びた時に女性ファンが一気に増えて、今は藤井聡太竜王・名人がブームですもんね。
青野 羽生九段本人が「結婚した瞬間に女性ファンが去っていった」と言っていました(笑)。でも、藤井竜王・名人は、結婚しても年配の女性ファンが残るのではないでしょうか。
魚住 確かに「息子がやっと結婚してくれた」みたいな気持ちになるのかもしれませんね。将棋の面でも羽生九段と藤井竜王・名人は違いますか?
青野 私はよく「藤井の才能」「羽生の持続力」と言っています。藤井竜王・名人は小学6年生から「詰将棋解答選手権」で、5年連続優勝しました。読む力が高く、どちらかというと左脳を使っていると思います。それに加えて、あの若さで何十年も将棋を指してきたような人しか繰り出せないような手が指せる。対局すると、大山康晴永世名人や中原誠さんのような圧はまったく感じません。まるでパソコンが座っているみたいに、一手一手追い込んでくるんですよ。
魚住 新しいタイプの棋士ということですか。
青野 はい。競馬にたとえると、馬群の中から抜け出てくるのではなく、外側から一気に抜き去るような棋士です。
魚住 羽生九段の強さはどんなところですか?
青野 先輩方に揉まれながら、その中を抜けてきました。以前、理化学研究所で脳の分析をした時、羽生九段が考えている最中は、右脳が左脳よりはるかに赤くなりました。感覚的な脳が非常に優れているんだと思います。羽生九段は、相手を徹底的に研究して、その一局を勝てばいいというものではないんです。優勢になるとわかっている手順で勝っても「今日は得るものがなかった」と思うんじゃないでしょうか。
魚住 それは、どうしてでしょう?
青野 1つの対局の勝ち負けではなく、9×9の盤面の中に、どういう可能性があるかを追求したいんです。他の棋士よりも将棋に対する純粋さが強いですね。
ゲスト:青野照市(あおの・てるいち)1953年、静岡県焼津市生まれ。68年、廣津久雄九段の弟子となり4級で奨励会入会。74年、四段に昇段しプロ棋士に。82年、第41期順位戦でA級に昇級。89年、第37期王座戦でタイトル初挑戦。24年、現役引退。通算成績は800勝899敗。日本将棋連盟の理事を長年務め、将棋の海外普及にも尽力し、11年に「外務大臣表彰」を受けた。
聞き手:魚住りえ(うおずみ・りえ)大阪府生まれ、広島県育ち。慶應義塾大学文学部卒。1995年、日本テレビにアナウンサーとして入社。報道、バラエティー、情報番組などで幅広く活躍。04年に独立し、フリーアナウンサーとして芸能活動をスタート。30年にわたるアナウンスメント技術を生かした「魚住式スピーチメソッド」を確立し、現在はボイス・スピーチデザイナーとしても活躍中。

