
「ウルトラマンタロウ COMPLETE DVD-BOX」(バンダイビジュアル)
【画像】え、「確かに団地で…」 コチラがウルトラマンタロウが戦った際に「一般人を巻き込んで」しまった怪獣です
ウルトラシリーズのタブー「巻き込まれた一般市民の存在」
令和の現在も続くウルトラシリーズは、昔からちょっと斜に構えた子供たちから、次のような「ツッコミ」を受けてきました。
「怪獣だけじゃなくウルトラマンだってビルを壊しているじゃないか」
全くその通りで、市街地で怪獣と格闘すれば、当然ながら建物が破壊されてしまいます。そうは言っても、ウルトラ戦士たちが自ら進んで破壊しているわけではないので、格闘におけるビルの破壊は「事故」と言っていいでしょう。
ただ、もう一歩踏み込むと、その事故に巻き込まれた一般市民はいないのか? という点が気になるところです。普段、破壊されようがない堅牢なビル群が簡単に壊されてしまう、この非現実感こそ特撮の醍醐味ではありますが、当然ながらそこには普通に生活していた人たちがいます。
事故とはいえ、ウルトラ戦士の格闘によるビルの破壊で出た被害者を描くことは、シリーズ全体の「正義」を揺るがしかねません。ウルトラマンのせいで「人が死ぬ」わけですから、まさしくタブーです。
この最大のタブーに斬り込んだ作品は、意外にも『ウルトラマンタロウ』でした。『タロウ』は他シリーズに比べても、コメディー要素が強く、ユーモラスな怪獣たちが多く登場する楽しい作品です。果たして、どんな話で犠牲者が描かれたのでしょうか。
それは、1973年12月21日放送の第38話「ウルトラのクリスマスツリー」でのことでした。タイトルの通り、「クリスマス」回です。大筋としては、まず両親を事故で亡くした少女と、その少女を不憫に思った「ミラクル星人」との交流が描かれ、そしてそのミラクル星人が悪き「テロリスト星人」に襲われ死亡、そしてテロリスト星人をタロウが討伐するという内容でした。
ミラクル星人と少女の関係だけでも十分に悲劇的なのですが、そもそも少女の両親が亡くなる原因となった事故こそが、タロウと怪獣の格闘によって発生したものだったのです。
劇中では、第5話 「親星子星一番星」の、巨大な亀の怪獣「キングトータス」たちとの戦闘シーンが挿入されました。キングトータスらに翻弄され、タロウは団地ビルに倒れ込みます。この時の団地の破壊により、少女の両親は亡くなったのでした。
まさか、あのシーンの「足元」で、そんなことが起きていたとは衝撃です。
もちろんタロウが来なければ、被害はもっと拡大しています。タロウを咎めることはできませんが、この事実を知った、タロウ本人の心境は非常に気になるところです。
実際、劇中でタロウと一体化した「東光太郎」はこの事実を知ると「そうか、キングトータスとの戦いの時だったのか」と、しばらく神妙な顔つきをします。普段は底抜けに呑気で明るい光太郎(=タロウ)でも、やはり相当ショックだったようです。
が、それも長くは続きません。光太郎の気持ちの切り替えが早かった、というわけではなく、テロリスト星人が工業地帯に現れ、それどころではなくなりました。光太郎には、落ち込む暇すら与えられなかったのです。
光太郎は少女を避難させると、ウルトラマンタロウに変身し、テロリスト星人と死闘を繰り広げ勝利しました。この時、舞台となったのは市街地ではなく工業地帯です。これは別にタロウが反省して市街地を避けたわけではなく、テロリスト星人の狙いが地球のガスだったためでした。
自身の戦いに巻き込まれた犠牲者というタブーに踏み込んでいながらも、ストーリーはあくまでも通常運転です。光太郎が罪悪感の深みにハマり、巨大化や格闘を躊躇する、というような場面もありませんでした。
そして、38話はクリスマス回ということで、タロウは最後に東京タワーをクリスマスツリーに変えるという謎のイリュージョンを施します。その後、光太郎に戻ると、今度は少女を自宅のパーティーに招き、何となくハッピーエンドの雰囲気に包まれて終わりました。
タロウなりに少女のケアはしておりますが、一貫して呑気であることに変わりはありません。むしろ、これこそが『タロウ』という作品の真骨頂です。親しみやすさを前に出し、その奥に「タブー」を忍ばせる手法は、シリーズの製作陣の矜持を感じさせます。
さらにひとつ付け加えるなら、この少女の両親が亡くなる原因となったキングトータスの回は、本来罪のない巨大亀怪獣の親子との交戦のなか、タロウが子亀「ミニトータス」の母である「クイントータス」を倒してしまったことに、葛藤するシーンもあるのです。
この葛藤のさなか発生していたのが、これまで述べてきた悲劇的事故でした。目の前で母を失った怪獣に同情するなかで、足元では少女の両親の命が奪われていた……まったくクリスマスに、なんという皮肉のプレゼントでしょうか。この年のクリスマスに見返したい、傑作エピソードです。
