
片田舎で暮らす男子高校生のよしきが、親友の光を模倣する“ナニカ”と共に過ごす中で遭遇する怪異と、それぞれの思いや葛藤を描く青春ホラーアニメ「光が死んだ夏」(毎週土曜夜0:55-1:25ほか、日本テレビ系/ABEMAで配信)。物語はいよいよクライマックスにさしかかり、SNSを中心に視聴者の盛り上がりも一層高まっている。そこで今回、原作を手掛けるモクモクれんと、エンディング主題歌を担当するTOOBOEによる特別対談が実現。本作ファン必読の制作エピソードと、作品に懸ける情熱やこだわりを、2回に渡ってお届けしていく。(以下、ネタバレを含みます)
■物語序盤で不快になるラインまで踏み込んでおきたかった
――TOOBOEさんは「光が死んだ夏」という作品に初めて触れたとき、どんな印象を持たれましたか?
TOOBOE 漫画がSNSで話題になったときに読みまして、勝手な解釈なのですが、僕の好きなフェチズムといいますか、センシティブなところがとても出ている気がして。すごく狭いコミュニティで事件が起こるような作品が好きなので、そういう意味でも刺さりました。
――センシティブな部分というと?
TOOBOE 僕のCDのジャケットにもしているのですが、ヒカルが自分の中の怪物の部分を見せるシーン。どこか見てはいけないものを見ているような感覚があってすごく好きですね。
モクモクれん あのシーンは、私が思っている以上に読者がセンシティブに捉えてくれているように思いますね。こういうシーンなんじゃないか、ああいうシーンなんじゃないかと、いろいろな捉え方をしてくれて。意外と私は深く考えていないところもあるんですけど(笑)。
TOOBOE 「あのシーンが描きたくて始めたのかな」とすら思っていました。
モクモクれん フェチで描いたというよりは、多くの人にとって不快になる、受け入れがたいものを描きたいという気持ちがありました。1巻の時点でこの不快なラインまで踏み込んでおきたくて。気持ち悪いと思ってもらっても、色気のあるシーンだと思ってもらってもいいんですけど。

――アニメだからこその表現も多々あると思いますが、特に印象的なシーンは?
モクモクれん 制作初期に私から監督に合唱を使うのはどうかと提案して、そこから監督がかなり膨らませてくれました。音を使う、声を使うのはアニメでしかできないことなので、すごくいいなと。合唱シーンは原作にないので、練習のシーンはどこに繋がっているのかと思っていた読者が、「ああ、ここに繋がっているんだ」と腑に落ちたんじゃないかと思います。
TOOBOE 僕は第3話のエンディングですね。エンディング主題歌がフル尺で流れるんですけど、後々監督から元はそういう予定ではなく、曲を聴いたときにフル尺がすごく気に入ったので使わせていただいたと伺って。僕の曲によってアニメに1つのアイデアが生まれて、そう来るならこちらもこうしてやろうと、お互いのアイデアが相乗効果で膨らんでいったのが第3話のエンディングだったと思っています。

■「こいつじゃないだろ」と言われるのを前提で“なめずに”作り上げた一曲
――TOOBOEさんがエンディング主題歌を依頼された際に、アニメ制作サイドから具体的な要望はありましたか?
TOOBOE デモテープを作る段階では特になかったです。僕がやった作業としては、まず改めて原作を読ませていただいて、そこからいろんな要素を抽出したんです。この作品には「夏」の要素や「青春群像劇」みたいな要素があって、「ホラー」や「サスペンス」の要素もある。それが上手に成り立っていることにすごく驚いたんですよ。最初はホラーっぽい曲と、夏っぽい曲、青春っぽい曲に分けたんですが、レーベルと話し合ううちに全部混ぜようという話になって。それが「あなたはかいぶつ」という曲です。
――モクモクれん先生が初めて曲を聴かれたタイミングは?
モクモクれん デモを4曲くらい作ってくださったので、そこで初めて聴きました。どの曲にするか監督と相談して、監督も私もほぼ意見はずれず、これが一番という感じでした。アニメは切ない終わり方をする回が多いと思うんですが、その切なさを盛り上げてくれるという意味で、私はあまり悩まずに選びました。でも、どの曲もすごく良かったので、デモ曲は作業中にずっと聴いていましたね。
――タイトルを全部ひらがなにした理由をお聞かせいただけますか。
TOOBOE 僕の勝手な解釈なんですけど、ヒカル君の中に入っている怪異には、どこか子どもっぽいような、人間のことを理解しきっていないような、未熟なところがあると思っていて。タイトルが漢字だと大人が言い切っているような印象になりますけど、ひらがなだと疑問を持っているようにも見えるし断定しているようにも見える。そのあいまいさがひらがなの魅力かなと。
モクモクれん 英語タイトルの「You are my monster」はTOOBOEさんが考えたんですか?
TOOBOE そうです。これは1つのギミックで、「Are You My Monster?」という海外の児童絵本をちょっともじっているというか、ちょっと子どもっぽい感じにしたいなと思って。海外の方々もアニメ文化に触れられるので、そのまま「You are the monster」にせずにワンギミック入れたいと思ったんです。
モクモクれん そうだったんですね。この作品はけっこう海外読者もいるみたいなので、素敵だなと思って。いい話が聞けました。

――ちなみに、TOOBOEさんはYouTubeのコメントに目を通されますか?
TOOBOE 僕は怖いので見ません。ただ、評判はスタッフに吸い上げてもらっているので、ある程度伺ってはおります。
モクモクれん 「光が死んだ夏」関連のYouTube動画のコメント欄を見ると、「あなたはかいぶつ」のコメント欄が一番優しいんですよ。繊細で優しい人が集まっていて、TOOBOEさんのファン層の雰囲気も感じられましたね。繊細さを持ってよしきに寄り添うようなコメントがすごく多くて、私もすごく救われました。
――原作ファンも「この曲は作品をすごく理解してくれている」「刺さった」というコメントを寄せていますね。
TOOBOE そうなんですね。言い方が悪くなるかもしれませんが、僕はタイアップを絶対になめたくないんです。原作やアニメが盛り上がるのが大前提で、自分の名前を売りたいとかヒットさせたいとかは二の次なんですよ。結果的にヒットすればうれしいし、アニメを知らなくても聴ける曲として作ってはいるんですけど、やっぱりアニメを観る方に喜んでもらいたくて。これは唯一したエゴサなんですけど、アニメ放送が始まる前に『「光が死んだ夏」 主題歌』で検索したら、TOOBOEにやってほしいという人は0人。本当に0人だったんです。
モクモクれん ええーっ!?
TOOBOE 解禁されたらまず「誰だこいつ」となるし、「こいつじゃないだろ」と言われるのを前提で作ったんですよ、なめずに。僕が今まで作った曲はガチャガチャしたポップスが多くて、今回の曲みたいなイメージがない人もいると思うので、最終的に「このアーティストで良かった」と思ってもらえることをゴールとしてやっていました。先ほど伺ったようなコメントをいただけているなら良かったなと。

――エンディングのアニメーションは実写を交えたユニークな作りですよね。おふたりは最初にご覧になったとき、どういう印象を持たれましたか?
TOOBOE 想像以上に作り込んでくださって、すごくうれしかったですね。実写もたぶんロケに行って撮影されたと思うので。季節が「冬」というのも僕が意図していなかったところで、1つ上を行かれた感じですね。
モクモクれん ロケの現地で撮った映像を先に観たんですが、よしきとヒカルの位置にスタッフさんが座ってくださって。アニメの映像を観たときには「あの映像がこんなふうになったんだ!」と感動しましたね。アニメにもそこにいたスタッフさんの動きの名残みたいなものが少しあって、そのおかげで生前の光が生々しくなっているのがとても良かったです。光は非常に現実味のある生々しいキャラクターとして描いていて、本当にその辺にいる普通の男の子というイメージがあったので。
――サビの「サヨナラ」の部分をよしきとヒカルが口ずさむのも印象的ですよね。
TOOBOE あれはびっくりしましたね。すごく良くて、僕らのMVにも取り入れたくらいで。「サヨナラ」はポップスとして耳なじみのある言葉だと思うので、サビの入りの「サヨナラ」から作っていきました。僕としてもここで心をつかみたいという部分を、映像でも表現していただけたのがうれしかったです。
◆取材・文=帆刈理恵(スタジオエクレア)

※【後編】は9/26(金)18:00配信予定。
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<プロフィール>
・モクモクれん

漫画家。『光が死んだ夏』で商業連載デビュー。
青春とホラーが交錯する鮮烈な世界観がSNSを中心に話題を呼び、
連載開始から1年足らずで同作品が『このマンガがすごい!2023』(宝島社)オトコ編第1位、『マンガ大賞2023』第11位を獲得。小説化・アニメ化・舞台化など、様々なメディアミックスが展開される。
・TOOBOE

音楽クリエイター「john」による、作詞/作曲/編曲/歌唱/イラスト/映像を始めとした様々なクリエイティブ活動を手がけるソロプロジェクト「TOOBOE」。
特徴的な声とキャッチーで癖になる楽曲で、現代の音楽におけるネットシーンとJ-Popを横断的に行き来し表現するマルチアーティスト。
2022年4月に1stシングル「心臓」をリリースしメジャーデビュー。
2022年11月にリリースした「錠剤」はTVアニメ『チェンソーマン』第4話エンディングテーマとして起用された。
さらに2024年6月に公開した「痛いの痛いの飛んでいけ」のMVは、既にそれぞれ2000万回再生を突破している「心臓」「錠剤」を凌ぐ勢いで世界各国で話題を呼び、自身最速でYouTubeの再生回数2000万回を突破した。

