佐藤天彦九段(37歳、元名人)が今期の第84期名人戦・順位戦A級で開幕から3連敗を喫し、その戦いぶりが将棋界で話題になっている。
注目を集めているのは、そのすべての対局で「振り飛車」を選んだ点だ。かつて居飛車党の「貴族」として知られた佐藤が、あえて振り飛車に挑んだ結果の黒星続き。ファンの間では早くも「振り飛車の呪い」と呼ばれ、議論を呼んでいる。る。
佐藤が振り飛車に転じた背景には、AI全盛時代ならではの事情がある。居飛車の研究が徹底的に掘り下げられ、自由度が失われつつある中で、自身の将棋に独創性を取り戻そうとしたのだ。実際、昨年の第83期A級開幕戦では角交換四間飛車を採用し、永瀬拓矢九段に勝利。その後2連勝を飾り、一時はA級単独トップに立ち「天彦流の新境地」と注目を浴びた。だが今期は、初戦の増田康宏九段戦で四間飛車、2回戦の豊島将之九段戦で三間飛車、3回戦の佐々木勇気八段戦で再び四間飛車を採用するも、いずれも惜敗。内容は互角に渡り合った局面もあったが、最後に勝ち切れなかった。
連敗に敏感に反応したのがファンだ。将棋コミュニティサイトでは「やっぱり振り飛車は厳しいのでは」「居飛車全盛の時代に逆行している」といった批判の声が目立つ一方で、「挑戦する姿勢が格好いい」「貴族らしい美学だ」と擁護するコメントも並んだ。
振り飛車を武器にしてきた棋士たちも、軒並み苦しい戦いを強いられている。菅井竜也八段は昨期A級から降級し、稲葉陽八段も振り飛車を試したが結果を残せなかった。AI研究の進展で居飛車側の対策が高度化し、振り飛車が受けに回る展開が増えていることから、「トッププロの舞台では不利」という見方が広がっているのだ。
佐藤自身は「自分の棋風を活かせる部分もあるが、修正点は多い」と語る。解説者からも「AIの評価は振り飛車に厳しいが、人間同士ならまだ十分に戦える」との分析が示され、一概に失敗と決めつけるのは早計だろう。実際、早指し団体戦のABEMAトーナメント2025では「チーム天彦」を率いて優勝を果たし、健在ぶりを示した。
順位戦A級は10人総当たりのリーグ戦だ。わずか9局で勝負が決まるため、序盤の連敗は大きな痛手となる。残りの対局で巻き返し、振り飛車の可能性を示せるのか。37歳の元名人が次にどんな答えを出すのか、その一手一手に将棋界の視線が注がれている。
(ケン高田)

