ただ手をつないだだけなのに

今でも胸の奥が…(写真:iStock)
「初めて“手をつないだ夜”がすべてを変えた──」
この話を聞かせてくれたのは、私の友人・美帆(仮名・30)。大学時代、ずっと片想いしていた人との“忘れられない夜”があるという。
美帆が言うには、その夜は派手さも劇的な展開もない。ただ“手をつないだだけ”。それなのに、今でも胸の奥がふっと熱くなるほどの記憶だという。
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冬の終わりの思い出

終電を逃して(写真:iStock)
美帆が大学2年の頃、ゼミが同じだった祐介という男子がいた。
派手なタイプではない。むしろ地味で、背も高くない。でも話すといつも穏やかで、会話のテンポが美帆と不思議なほど合った。
特別仲がいいわけでもないし、二人きりで出かけたこともない。それでも美帆はいつからか、祐介と目が合うと胸がぎゅっとするようになった。
ある冬の終わり、ゼミの飲み会の帰り。まだ夜風が冷たく、街の灯りがやけに遠くに感じる季節だった。みんなで笑いながら駅まで向かったものの、気づけば美帆と祐介だけが終電を逃していた。
「タクシーで帰る?」
祐介が聞くと、美帆はなぜか首を横に振った。
「少し歩こっか。酔い醒ましたいし」
そう言った自分に、あとで美帆は苦笑したという。終電を逃したことより、二人きりになったことのほうがずっと心臓に悪かったからだ。
