
体調が悪いとき、「なんだか顔色が悪いね」といわれた経験は誰にでもあるはずです。
実は人間は、相手の顔つきから無意識のうちに病気の兆候を読み取っています。
そして米マイアミ大学(UM)の最新研究により、この能力には男女で性差がある可能性が示されました。
実験によると、女性は男性よりも、顔に表れる病気の兆候をより正確に見抜いていたのです。
研究の詳細は2025年11月11日付で学術誌『Evolution and Human Behavior』に掲載されています。
目次
- 「病気のサイン」はどのように測られたのか
- 女性の方が「病気の顔」を正確に見分けていた
「病気のサイン」はどのように測られたのか
これまでの研究では、顔写真を加工したり、人工的に体調不良を作り出した被写体を使うケースもありました。
しかし今回の研究では、実際に自然な感染症にかかっていた人の顔と、同じ人物が健康なときの顔を比較しています。
実験には、男女同数の大学生280人が参加しました。
参加者は、同一人物の「健康なとき」と「病気のとき」の顔写真を見比べながら、その印象を評価しました。
評価項目は、安全そうか、健康そうか、近づきやすいか、注意力がありそうか、社交的に見えるか、前向きに見えるか、という6つの側面です。
一見すると病気とは直接関係なさそうな項目も含まれていますが、研究者はこれらをまとめて「倦怠感(lassitude)」という総合的な印象として扱いました。
病気の顔は、単に青白いだけでなく、「元気がなさそう」「反応が鈍そう」といった印象全体として知覚されると考えたのです。
女性の方が「病気の顔」を正確に見分けていた
参加者の評価を統計的に分析した結果、研究者の仮説は支持されました。
女性は男性よりも、健康な顔と病気の顔の違いをより正確に見分けていたのです。
その差は決して大きくありませんでしたが、実験全体を通して一貫しており、偶然とは言えないレベルの有意なものでした。
研究者たちは、この性差の背景として、2つの進化的仮説を挙げています。
1つは、歴史的に女性が乳幼児の世話を担うことが多かったという「主要養育者仮説」です。
赤ちゃんや幼い子どもは、自分で体調不良を訴えられません。
顔つきの変化に早く気づけることは、子どもの生存率を高める利点があったと考えられます。
もう1つは、「汚染回避仮説」です。
女性は妊娠や月経周期に伴い免疫が低下する時期を繰り返し経験します。
そのため、病気を避ける行動に対する進化的な圧力が、男性よりも強く働いた可能性があると論文では説明されています。
この研究が示しているのは、「女性は特別に鋭い能力を持っている」と断言するものではありません。
実際、性差はそこまで明瞭なものではなく、男女の能力が大きく分かれるわけではありません。
それでも、顔のわずかな変化から病気を察知する力に、統計的に確認できる差があったことは重要です。
人間が持つ「行動免疫システム」が、どのように進化し、どのような個人差を持つのかを理解する手がかりになるからです。
今後、声や姿勢、動きといった要素が加われば、病気の察知はさらに複雑なものになるでしょう。
私たちが日常で何気なく感じている「具合が悪そう」という直感には、思った以上に深い進化の歴史が隠れているのかもしれません。
参考文献
Women are better at recognizing illness in faces compared to men, study finds
https://medicalxpress.com/news/2025-12-women-illness-men.html
元論文
Individual differences in sick face sensitivity: females are more sensitive to lassitude facial expressions than males
https://doi.org/10.1016/j.evolhumbehav.2025.106803
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

