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なぜ「たくろう」は審査員の心を掴んだのか?令和の漫才を変えた“ズレの美学”を徹底解剖

なぜ「たくろう」は審査員の心を掴んだのか?令和の漫才を変えた“ズレの美学”を徹底解剖

『M‐1グランプリ』公式サイトより

2025年12月21日。『M‐1グランプリ2025』決勝の舞台で、たくろうの漫才が始まった瞬間、会場には奇妙な空気が流れた。笑いが起きる「前」の時間が、いつもより明らかに長かったのだ。

観客も審査員も、次に何が起こるのか判断できず、反応を保留したまま赤木の様子を見守る。その数秒後、遅れて押し寄せた笑いが一気に広がった。たくろうの漫才は、冒頭から観る側の感覚を意図的に狂わせていた。

彼らの漫才が特異なのは、ネタの設定や構造以上に、「会話が成立していないように見える点」にある。

きむらバンドが自信満々に差し出す提案に対し、赤木は即座に否定も肯定もしない。戸惑いながら、言葉を探し、結論に辿り着く前に別の方向へ話を進めてしまう。そのやり取りは、従来の“ボケとツッコミの応酬”という枠組みから意図的に外れている。

漫才に詳しい芸能記者は、こう分析する。

「たくろうのネタには、分かりやすい“正解役”がいません。きむらバンドは話を整理しようとしないし、赤木も混乱を解消しない。二人は噛み合わないまま並走している。その状態そのものを笑いにしている点が、これまでの漫才と決定的に違います」

一見すると、赤木の言動はアドリブの連続のようにも映る。しかし実際には、言葉を詰まらせるタイミング、視線を外す秒数、声の震え方までが精密に設計されている。

赤木が言いよどむ数秒間、観客は「待たされる」。その待ち時間が長いほど、次に放たれる一言の破壊力は増す。笑いが生まれるポイントを増やすのではなく、一つのポイントを最大限まで膨らませる。その設計思想が、高度な技術として評価されたのだ。

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「手数」の時代から「深度」の時代へ

近年のM‐1では、4分間にどれだけ多くの笑いを配置できるかが勝敗を分けてきた。テンポを上げ、情報量を増やし、観客を置いていかないことが重要視されていた。だが、たくろうは、その流れに乗らなかった。

彼らのネタは、一つの違和感を提示し、それを解消せずに引きずり続ける構造になっている。赤木のズレた受け答えは、単なるキャラクター設定ではなく、人が考えすぎた末に立ち止まってしまう瞬間をそのまま切り取ったようでもある。

長年お笑い界を見続けてきた放送作家は、たくろうの笑いをこう位置づける。

「以前は、『変な人』を外側から指さして笑うネタが多かった。でも、たくろうは赤木の奇妙さを否定しない。きむらバンドも一緒に戸惑いながら舞台に立っている。その距離感が、観る側に不思議な安心感を与えるんです」

最終決戦でも、たくろうはペースを変えなかった。他のコンビが完成度とスピードで押し切ろうとする中、赤木の不安定な声と間の取り方が、逆に会場の集中力を引き寄せていく。

優勝が決まった瞬間、赤木はすぐに状況を理解できず、きむらバンドは言葉を失った。その姿は、ネタ中と同じくどこか噛み合っていない。しかし、その不揃いさこそが、たくろうというコンビの本質だった。

「ズレていること」は、欠点ではない。たくろうがこの大会で示したのは、技巧を積み上げた先にある、人間の不完全さそのものが生む笑いだった。漫才という形式は、彼らによって新しい余白を与えられたと言えるだろう。

この先、たくろうがどんな景色を見せてくれるのか。期待が集まる理由は、彼らがまだ“整いきっていない”ところにある。

配信元: 週刊実話WEB

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