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透明なのに熱は通さない新素材「MOCHI(モチ)」が開発

透明なのに熱は通さない新素材「MOCHI(モチ)」が開発

透明なのに熱は通さない新素材「MOCHI(モチ)」が開発
透明なのに熱は通さない新素材「MOCHI(モチ)」が開発 / Credit: Glenn J. Asakawa/CU Boulder

アメリカのコロラド大学ボルダー校(CU Boulder)で行われた研究により、窓に貼っても景色をほとんど変えないほど透明なのに、熱だけは通しにくい新素材「MOCHI(モチ)」が作られました。

MOCHIは目に見える光の99%以上を通しつつ、熱の伝わりやすさ(熱伝導率)が約0.010〜0.012 W/(m・K)と、通常の窓ガラスの80分の1から100分の1であり、空気(約0.027 W/(m・K))よりも低い値を示しています。

さらに研究チームは、この素材を薄いフィルム状にして既存の窓に追加する使い方や、厚めのパネルとして窓ユニットに組み込む可能性も示しており、うまく使えれば「窓は明るいけれど寒い(暑い)」という弱点を減らせるかもしれません。

もし窓が“ほぼ透明な断熱材”に変わったら、私たちの暮らしの暑さ寒さはどこまで変えられるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年12月11日に『Science』にて発表されました。

目次

  • 窓際が寒い時代は終わるのか?
  • 透明なのに熱を止める「MOCHI」の原理はプチプチ
  • 透明断熱が普及したら、建物の設計は変わる

窓際が寒い時代は終わるのか?

窓際が寒い時代は終わるのか?
窓際が寒い時代は終わるのか? / 上の図のC(左)とD(右)はMOCHIを組み込んだ窓でも、景色がくっきり見える高い透明性と自然な色の見え方(色再現)を保てることを、実物写真で示したものです。Cは窓枠が52.5×65cmでMOCHIの厚さは35mm、Dは窓枠が35×50cmでMOXHIの厚さ37.5mmとなっています。/Credit:Mesoporous optically clear heat insulators for sustainable building envelopes

冬の寒い日、窓にプチプチ(気泡緩衝材)を貼って、部屋の暖かさを保とうとしたことがある人もいると思います。

プチプチは中に空気を閉じ込めているため、簡単な断熱材としてそれなりに役立ちます。

ただし、その代償として景色はほぼ失われてしまいます。

ここで大事なのは、「なぜ窓は寒いのか」という点です。

建物の壁や屋根、窓など“外側の部分”でやり取りされる熱のうち、実は半分近くが窓から出入りしています。

壁には分厚い断熱材を入れられますが、窓は光を通す必要があるため、同じことができません。

このため窓は、長い間「エネルギー効率の弱点」とされてきました。

この弱点を補うため、これまでにも多くの工夫が試されてきました。

複層ガラス、真空ガラス、透明なエアロゲルなどがその代表例です。

しかし、どの方法にも課題がありました。

特に問題になるのが、素材の中にある空気を含んだ無数の小さな孔(穴)です。

素材内部の穴は空気を含み断熱効果を発揮しますが、孔の大きさがばらばらだと光を散乱させ、そこが曇りの原因になります。

だから透明を保つには、孔や構造の“特徴の大きさ”を、光の波長(目に見える光は数百ナノメートル)より十分小さい「数十ナノメートル以下」にそろえる必要がありました。

一方で断熱のほうは、もう一つ条件があります。

空気の熱は主に、空気分子同士がぶつかり合いながら運ばれます。

ですがこのとき、空気を閉じ込めた穴が小さいと、空気分子は別の空気分子にぶつかる前に穴の壁に当たりやすくなり、熱が運ばれにくくなります。

そのためには穴の大きさを60ナノメートル以下にしなければなりません。

つまり、窓用の理想的な断熱材には二つの条件があります。

光の波長より十分小さな孔で、光を散らさず、同時に空気分子の動きを抑えるほど孔を細かくすることです。

この二つを同時に満たす素材を、大きな窓サイズで作るのは、これまで極めて困難でした。

そこで今回、研究者たちはメソポーラス・シリコーンという新しい素材に着目しました。

これは、ナノメートル単位で大きさのそろった非常に細かい孔を持つシリコーン素材です。

研究チームはこの構造を利用して、透明性と断熱性を両立させた新素材を開発することにしました。

もし狙い通りの性能が得られれば、「窓は仕方なく寒いものだ」という常識が変わる可能性があります。

光を取り入れながら、熱の出入りだけを抑える窓は、本当に実現できるのでしょうか。

透明なのに熱を止める「MOCHI」の原理はプチプチ

透明なのに熱を止める「MOCHI」の原理はプチプチ
透明なのに熱を止める「MOCHI」の原理はプチプチ / Credit: Glenn J. Asakawa/CU Boulder

研究チームが開発したMOCHI素材は、ひとことで言えば「究極に透明で超軽量なスポンジ状のシリコーン」です。

シリコーンというのは、いわゆる柔らかいゴムのような樹脂の一種で、似た名前のシリコンとは別の材料です。

(※シリコン(ケイ素:Si)は半導体や太陽電池などに使われる硬い材料ですがシリコーンはケイ素と酸素がつながった高分子(ポリマー)で、ゴムやオイル、シーリング材など柔らかい製品に使われます。)

まず研究チームは、シリコーンの中に非常に細かな「穴」を作る方法を考えました。

その秘密は、界面活性剤という石けんのような物質にあります。

この界面活性剤は、水の中で勝手に糸状の集まりを作る不思議な性質を持っています。

そこで、まずはこの糸のまわりをシリコーンで包み込み、あとから界面活性剤を溶媒(液体)で洗い流してしまいます。

すると、界面活性剤があった場所が空っぽの管状になって残るわけです。

こうして出来上がった素材は、体積の85〜95%が空気でできた、まるで「空気をぎゅっと閉じ込めた透明なプチプチ」とでもいうべき構造になっています。

研究者たちは、この素材を「MOCHI(モチ)」と名付けました。

この不思議な名前は、専門用語の頭文字をとったもので、「多孔質で光学的に透明な断熱材(Mesoporous Optically Clear Heat Insulato)」という意味です。

気になるのはその性能ですが、驚くべきことに、ほぼ完全な透明性を持っています。

平均で99%以上の光を通すことが確認されていて、肉眼ではまるで何もないかのように透き通っています。

通常、この手の素材は厚くすると曇ったように白く見えてしまうのですが、MOCHIは厚さ3センチという大きな板にしても、その透明性がほとんど失われません。

また、光の乱れ(ヘイズ)も1%未満と非常に低く、まるで普通のガラスと見分けがつかないほど透明です。

さて、もう一つ大事なポイントは断熱性能です。

先に述べたように、MOCHIの熱の伝えにくさ(熱伝導率)は、約0.010〜0.012 W/(m・K)という値を叩き出しました。

これに対して、一般的な窓ガラス(ソーダライムガラス(一般的な窓ガラス))の熱伝導率は、およそ0.8〜1.0 W/(m・K)ほどあります。

単純に熱の通しやすさ(材料の熱伝導率だけ)を比べると、MOCHIは普通のガラスに比べて約80倍〜100倍ほど熱を通しにくい、という驚くほど優れた断熱性能を持つことになります。

さらにこの値は熱を伝えにくい代表格である普通の空気(約0.027 W/(m・K))の半分以下と言う極めて低い値です。

そのため、薄くても十分な断熱効果を発揮します。

手の上にMOCHIを貼って炎に耐える実験
手の上にMOCHIを貼って炎に耐える実験 / Credit:Mesoporous optically clear heat insulators for sustainable building envelopes

実際、手のひらの上に厚さ5ミリほどのMOCHIシートを置いて、その上からバーナーの炎を当てても熱さをほとんど感じにくい、という驚きのデモンストレーションが行われました。

では、MOCHIがなぜここまで熱を伝えにくいのか。

これは、MOCHI内部の小さな穴のサイズに秘密があります。

先に述べたように、空気が熱を運ぶ仕組みは、空気の分子がぶつかり合いながらエネルギーを渡していくことによります。

MOCHIの中の穴のサイズはおよそ30ナノメートル(ナノは10億分の1メートル)ほどで、空気分子が自由に飛び回れる距離(約60ナノメートル)よりもずっと小さいのです。

そのため空気分子はお互いにぶつかる前に、すぐ穴の壁に当たってしまい、熱をうまく運べなくなります。

一方で、目に見える光の波長は数百ナノメートル程度あります。

MOCHIの穴は、それよりずっと小さいため、光にとってはほぼ「穴がない」のと同じ状況です。

光は邪魔されず、すっと通り抜けていくのです。

さらにMOCHI素材は、光の反射が極めて少なく、その反射率はたったの0.02%程度しかありません。

これは、普通のガラスよりずっと透明に見える大きな理由です。

例えるなら、網戸が風の流れをほどよく弱めながら日光はしっかり通すように、MOCHIは熱を運ぶ空気分子の動きだけを絶妙に抑えつつ、光は自由に通す仕組みになっているのです。

しかもMOCHIのすごさは、それが小さな実験室レベルで終わっていないことです。

研究チームは、実際に窓と同じくらいの大きさの板(平方メートル級)を作って、断熱性能を確認しました。

例えば、厚さ2.5センチほどのMOCHI板を二重窓と同じ厚さのユニットに組み込むと、なんと壁並みかそれ以上の断熱性を示したのです。

さらに、3〜4ミリの薄いMOCHIフィルムを普通の窓ガラスの内側に貼り付けるだけでも、二重窓に近いレベルの断熱性能にアップグレードできることが分かりました。

また実用面でも、MOCHIは極めて頑丈で耐久性も抜群でした。

薄く伸ばしたシート状のMOCHIを丸めて広げる作業を何百回繰り返しても性能が大きく落ちず、さらに温度の変化にも強く、火にも水にも比較的強いという驚異的な性質を持っています。

実際に窓の内側に貼り付けて約5年間の経過観察を行ったところ、性能の低下はほぼ確認されませんでした。

こうして見ると、このMOCHIという素材は、ただの実験室の「新しい素材」にとどまらず、実用化が狙えるかもしれないほどの完成度を持っていると言えそうです。

配信元: ナゾロジー

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