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透明なのに熱は通さない新素材「MOCHI(モチ)」が開発

透明なのに熱は通さない新素材「MOCHI(モチ)」が開発

透明断熱が普及したら、建物の設計は変わる

MOCHIを貼った窓は壁と同じくらいの断熱性を持つようになります
MOCHIを貼った窓は壁と同じくらいの断熱性を持つようになります / Credit:Canva

今回の研究によって窓が「熱を逃がしたり招き入れたりする弱点」から解放される可能性が示されました。

MOCHIを使った新しい窓は、熱を閉じ込めて外に逃がしにくくするだけでなく、太陽の光を積極的に熱として使えるようになる可能性もあります。

実際、開発者のスマルユク教授も「少しくらい曇った日でも、十分な太陽エネルギーを取り込めば、水や部屋を温めるのに使えるかもしれません」と、その可能性に期待を込めています。

研究チームが行ったシミュレーションでは、標準的な一軒家モデルで単板窓をMOCHI仕様の窓ユニットに置き換えるだけで年間に使う冷暖房エネルギーを約半分近く減らせる可能性が示されています。

さらに、これまで寒さを防ぐためには窓を小さくするか、壁を厚くする必要がありました。

しかしMOCHIを使えば、明るく開放的な大きな窓を取り入れた設計がもっと自由に選べるようになるかもしれません。

コラム:北極にあるMOCHI張りの家が光で暖かくなって冷めない理由

想像してみてください。外はマイナス30度、どこまでも雪と氷の世界。けれど、あなたが入るその家は、壁のほとんどがガラスのように透明で、外の景色がくっきり見えます。それなのに中はぽかぽかと暖かく、コートを脱ぎたくなるくらいです。しかも壁には分厚い毛布も、銀色の断熱シートも見当たりません。ただ一つ違うのは、その「ガラス壁」に見える部分が、実はMOCHIという透明な断熱材でコーティングされていることです。ここでカギになるのは、太陽からの「光としてのエネルギー」と、空気分子を通して伝わる「熱としてのエネルギー」が別物だという点です。太陽は、私たちのところへ直接「暖かい空気」を送っているわけではありません。まずは光としてエネルギーを届け、その光を床や壁、家具、そしてあなた自身の体が吸収して、はじめて「熱」として感じられるようになります。外気温が何度であっても、太陽から飛んでくる「光のエネルギー」の強さそれ自体はほとんど変わりません。北極であっても、晴れて太陽が出ている時間帯であれば、太陽光はきちんと家まで届きます。一方、私たちが「寒い」と感じるのは、多くの場合、せっかく室内で作った熱が、空気を通じてどんどん逃げていくからです。空気は小さな分子の集まりで、その分子が壁や窓の表面でぶつかり合いながらエネルギーを運び出します。窓ガラスが一枚だけだと、内側の暖かい空気の分子がガラスを通じて外側の冷たい空気へとどんどん「バトン渡し」をしてしまい、せっかくの暖房が外に漏れてしまいます。これが「窓から熱が逃げる」という現象の正体です。MOCHIがすごいのは、この「空気のバトン渡し」をほぼ止めてしまう点です。その結果、室内は光で温められその熱は、MOCHI張りの家の中に留められることになります。

こうしたことからも分かる通り、MOCHIの社会的インパクトは非常に大きくなりうるでしょう。

例えば、今ある古い家の窓に薄いMOCHIのフィルムを貼り付けるだけでも、断熱性能が大きく改善される可能性があります。

また透明なのに熱を通しにくいという特性から、寒冷地の特殊な衣服など「中が見えて暖かいことが求められる用途」への活用も考えられます。

さらに興味深いことに、MOCHIは光をよく通す一方で、熱(赤外線)の放射をぎゅっと閉じ込める性質も持っています。

これを上手く利用して、太陽の光を暗い色の集熱パネルで吸収すれば、摂氏300度近い高温を生み出すことも条件次第で可能になるのです。

まさに窓という「エネルギーの弱点」を逆手に取って、積極的な「エネルギー活用の入口」に変えてしまう可能性を持つのがMOCHIという新素材なのです。

ただし、課題がまったく無いわけではありません。

実際のところ、現在MOCHIはまだ研究室レベルで、少量を慎重に作っている段階にすぎません。

ですから、本当に家庭や一般の建物で使える製品にするには、大量に安く作れるような製造方法を確立する必要があります。

とはいえ、材料自体はシリコーンなどで構成されているため、製造プロセスが整えば、実用化が進む可能性はあります。

耐久性の面でも、加速試験という方法で少なくとも20年間は性能を保てると予測されています。

さらに、窓の内側に貼った例でも約5年後に特性が保たれていたと報告されています。

もしかしたらそう遠くない未来、窓には「MOCHI」を張り付けるのが当たり前になっているかもしれません。

元論文

Mesoporous optically clear heat insulators for sustainable building envelopes
https://doi.org/10.1126/science.adx5568

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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