
多くの人が、年末年始に仕事から離れて十分に休息することを楽しみにしています。
ところが、連休が終わった後に「なぜか休んだ気がしない」「むしろ疲れが残っている」と感じた経験がある人も少なくないのではないでしょうか。
アメリカのウースター工科大学(WPI)の心理学者ステイシー・ショー氏は、既存研究を踏まえながら、私たちが考えている「休息」の捉え方そのものに問題がある可能性を指摘しています。
ショー氏は、年末年始に回復できない原因は、忙しさそのものよりも「休み方」にあると説明しています。
目次
- なぜ連休なのに回復できないのか
- 「回復する休息」とは?
なぜ連休なのに回復できないのか
私たちは一般に、「休息=睡眠」あるいは「休息=何もしない時間」だと考えがちです。
確かに睡眠は重要ですが、心理学ではそれだけでは十分とは言えないとされています。
人間には、起きている時間の中にも心を回復させるための休息が必要です。
休息とは必ずしも横になって過ごすことではなく、身体や注意をある程度使う活動も含まれるのです。
問題は、年末年始がこのような回復を得にくい環境になりやすい点です。
この時期は、出費の増加による金銭的な不安、生活リズムの乱れ、移動や帰省による疲労、さらには家族関係の緊張などが重なります。
仕事が休みであっても、心理的な負荷そのものはあまり減っていない場合が多いのです。
こうした状況で多くの人が選びやすいのが、テレビ視聴やスマートフォンの長時間利用です。
実際、2000年代初頭に行われた調査では、テレビ視聴は最も一般的な余暇活動である一方、満足度は最も低い活動として評価されていました。
特に、1日に4時間以上テレビを見る人ほど、「あまり楽しくなかった」と感じる傾向が強まることが報告されています。
ショー氏らが行った学生を対象とした調査でも、疲れた一日の終わりには、学生たちはスマホをスクロールするなどの「考えなくて済む行動」に流れがちである一方、それが回復感につながりにくいことが示されています。
ここから分かるのは、時間を使ったかどうかと、心が回復したかどうかは別問題だという点です。
では、どのような休息が心の回復につながりやすいのでしょうか。
「回復する休息」とは?
多くの研究により、休息の効果は「その時間でどれだけ満足できたか」に大きく左右されると分かっています。
そして、満足感をもたらしやすい活動には、いくつかの共通点があります。
例えば、自然の中を歩くことは、悲しみや反すう思考と関連する脳活動が弱まる傾向と結びついていることが研究で示されています。
また、不安やストレスが軽減されやすいことも報告されています。
さらに2011年の研究では、音楽演奏や書道など、意識を向ける対象がはっきりしている行動も、ストレスホルモンであるコルチゾールが低下しやすいことが知られています。
こうした活動は、うつ症状を和らげるための支援やプログラムにも活用されてきました。
ただし、このような回復的な行動は、気分が乗ったときに自然に行われるとは限りません。
そのため、回復につながる活動を「気分に従って選ぶ」のではなく、あらかじめ予定として組み込むことが大切です。
計画することで実行されやすくなり、その結果として心身の状態が改善しやすくなるのです。
そして年末年始にもう一つ大きな障害となるのが、「休むことへの罪悪感」です。
心理学ではこれをleisure guilt(余暇の罪悪感)と呼び、休んでいる間に「何か生産的なことをすべきではないか」と感じてしまう状態を指します。
この感情が強いと、休息そのものを楽しめず、回復の効果が弱まってしまいます。
ショー氏は、この問題への現実的な対処として、まず「すべてを完璧にこなそうとしない」ことが重要だと述べています。
年末年始は行事や家事、予定が重なりやすいため、最初から水準を下げ、やらなくてもよい作業を減らすことで、余計な負担や罪悪感を生みにくくなるといいます。
また、休息の時間には、注意が自然と引きつけられ、ほかのことを考えにくくなるような没入感のある活動を選ぶことが勧められています。
散歩やテレビゲーム、創作活動など、意識が目の前の行動に向きやすい活動は、スマホやテレビなどでだらだらと過ごす時間よりも回復感を得やすいと考えられます。
さらに、休んでいる最中に罪悪感を覚えたとしても、それを無理に消そうとせず、「今はそう感じている」と受け止める姿勢が大切だとしています。
罪悪感を否定せずに認識すること自体が、結果的に心の負担を軽くする助けになる場合があるのです。
このように、年末年始に本当に休むためには、「何もしない時間」を増やすことよりも、心が回復する方向に意識的に行動を選ぶことが大切です。
せっかくの連休だからこそ、少しだけ休み方を工夫し、心と身体をきちんと回復させる時間を意識してみてはいかがでしょうか。
参考文献
Rest is essential during the holidays, but it may mean getting active, not crashing on the couch
https://theconversation.com/rest-is-essential-during-the-holidays-but-it-may-mean-getting-active-not-crashing-on-the-couch-270396
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

