年末を迎え、訪日観光をめぐる空気が微妙に変わりつつある。11月の高市早苗首相による対中強硬と受け取られかねない発言をきっかけに、中国国内では日本渡航を控える動きが広がり、一部では中国人観光客の減少を懸念する声も上がっている。
確かに中国からの団体旅行のキャンセルや予約の鈍化は確認されているが、現場の実感は必ずしも悲観的ではない。この12月下旬、新宿ゴールデン街を歩くと、狭い路地の小さなバーには連日、外国人観光客がひしめいていた。あるバーの店主はこう話す。
「中国のお客さんは少し減ったかもしれませんが、全体の客足が落ちた感じはないですね。最近はむしろ、韓国から来た20代、30代の旅行者が目立ちます。日本語が多少は通じますし、この街の雰囲気そのものを楽しみに来ている感じです」
なぜ韓国の若者がゴールデン街に引き寄せられているのか。理由を尋ねると、このバー店主は意外な背景を明かした。
「ソウルでは近年、昔ながらの屋台がかなり減っているそうです。衛生規制や再開発の影響で『ポジャンマチャ』と呼ばれる屋台文化が姿を消しつつあると聞きます」
その一方で、韓国では「ニュートロ(Newtro)」と呼ばれる価値観が広がっている。「新しい(New)」と「懐かしい(Retro)」を掛け合わせた造語で、古いものを単なる過去としてでなく、現代的な感性で楽しみ直すスタイルを意味する。日本で昭和・平成レトロが再評価された流れと似ており、ソウルの益善洞では、韓屋と呼ばれる伝統家屋がカフェやベーカリーに生まれ変わり、若者たちの人気スポットとなっている。
つまり、結果として昭和の香りが残るゴールデン街のような、雑多でノスタルジックな飲み屋街が、韓国の若者には新鮮に映っているのだ。
「韓国にはもう、こういう場所が少ない。ここは映画の中みたいだと言われますね」(前出・バー店主)
政治発言で揺れるインバウンド情勢だが、少なくともゴールデン街では客層が「入れ替わっただけ」というのが実情のようだ。
(カワノアユミ)

