
第83回ゴールデングローブ賞にノミネートされた、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』第3弾キービジュアル (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
【画像】「えっ」「強敵じゃないか」 これが実は『鬼滅の刃』以上にアメリカで見られた、大バズリアニメ作品です(6枚)
「アカデミー賞」の前哨戦となる映画賞
今年2025年の映画界・アニメ界最大のトピックは、間違いなく『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(以下『無限城編』)の世界的大ヒットでしょう。全世界の世界興行収入が累計1000億円を超えるヒットというのは、ハリウッドの超大作でもなかなか実現できないレベルの規模であり、これまでアメリカ映画と中国映画しか成し遂げておらず、米中2大国以外の作品で、初めての快挙となりました。
しかし、同作の快進撃は興行収入だけにとどまらないようです。同作は2026年1月に発表される「第83回ゴールデングローブ賞」の最優秀長編アニメーション映画賞にもノミネートされています。日本の長編アニメーション作品が同賞にノミネートされるのはこれで5本目ですが、これまでノミネートされてきた作品とは性質が異なるため、これは大きな歴史の転換点になるかもしれません。
ゴールデングローブ賞は、毎年1月に開催される、アメリカの映画&テレビドラマに贈られる賞です。歴史は古く、1943年にハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)という団体によって設立されましたが、2024年からはテレビ制作会社、ディック・クラーク・プロダクションとその親会社エルドリッジ・インダストリーズが運営しています。
この賞は米国アカデミー賞の前哨戦として非常に注目度が高く、ここから本格的に賞レースが始まるといっても過言ではありません。そのため、アカデミー賞にノミネートできるかどうかを占ううえでも、業界全体の注目度が高い賞なのです。
これまで、日本のアニメーション映画で同賞にノミネートしたのは、以下の4本です。
未来のミライ(2019年開催、第76回)
犬王(2023年開催、第80回)
すずめの戸締まり(2024年開催、第81回)
君たちはどう生きるか(2024年開催、第81回)
この賞が日本のアニメ作品を選ぶようになったのはごく近年のことで、それ以前はディズニーやピクサーなど、米国のアニメーション作品が大半を占めている状態でした。
今年の顔ぶれを見ると、『無限城編』以外に『Arco』や『アメリと雨の物語』といったフランス製のアニメーション作品がノミネートしており、半分がアメリカ以外の作品となっています。ゴールデングローブ賞は近年、海外作品にも門戸を開くようになってきており、『無限城編』のノミネートもその流れに位置付けられるでしょう。
しかし、『無限城編』はこれまでノミネートされてきた作品とは異質な点があります。それはテレビシリーズの続編の位置づけである「劇場版」であるという点です。これまでノミネートしてきた日本のアニメ映画を見てもわかるように、映画1本で完結している作品がこれまで評価されてきました。『無限城編』のような、いわゆるシリーズものは、こうした賞レースではなかなか評価の土台にあげてもらえなかったのですが、今回『無限城編』がその壁を破ったことになります。
それゆえ、本作のゴールデングローブ賞へのノミネートは、それだけで「快挙」と言えるもので、本作が単なる売上だけでなく、評価の面でも大きな壁を破った証となっているのです。

2025年12月5日から日本でも公開されている『ズートピア2』の場面カット。同作は第83回ゴールデングローブ賞にノミネートされている (C)2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
『鬼滅の刃』は不利な状況? 評価者の「アニメ」に対する認識は
ノミネートだけでもかなりの快挙だと筆者は思っていますが、当然受賞すればもっとすごい快挙となります。実際、『無限城編』がゴールデングローブ賞アニメーション賞を受賞できる可能性はどれくらいあるのでしょうか。
正直に言って、簡単ではないでしょう。今年はNetflixの視聴記録を塗り替えた『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』がノミネートしています。こちらの作品はとにかくアメリカではものすごい人気があり、視聴人数でいえば『無限城編』よりも多いと言えます。しかも、配信だけでなく、映画館でもイベント上映を行い、大ヒットを記録したのも大きなインパクトを与えています。
もうひとつ、現在日本でも大ヒット中の『ズートピア2』も有力候補です。やはり、ディズニーブランドはなんだかんだ言って強いです。現在の北米の映画館の救世主となっており、『無限城編』の世界興行収入の記録をあっさりと超えていきました。
その他、フランスの2作『Arco』と『アメリと雨の物語』は、国際映画祭で非常に高く評価された2本です。
ゴールデングローブ賞は、世界中の約300人の映画ジャーナリストによって投票されます。日本のアニメに詳しい人間はおそらくそれほど多くなく、シリーズを一通り見ていないと物語が完全に理解しきれない『無限城編』は不利になることが予想されます。
日本のアニメは、ファンダム(ファン層やファン文化)は大きく広がりましたが、その動きに既存の映画ジャーナリストがついていけているわけではないと考えます。まだまだ、そういう人たちにとって日本のアニメは(ジブリをのぞいて)未知の存在であり、テレビシリーズからの続きとなると、ますますわからないでしょう。
筆者は今年10月にロサンゼルスで知り合いの映画プロデューサーと話す機会があったのですが、その方曰く、「自分の周囲の人間はみんな『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』は見ているけど、『無限城編』を見た人はいない」とのことでした。これはジャーナリストではなく業界人の発言ですが、アニメファンダムの大きさに比して、メディアや業界の動きはまだついていけていないという印象を受けます。
そういうわけで、『鬼滅の刃』のゴールデングローブ賞受賞には大きな壁が立ちはだかっていると考えますが、そんな不利な条件下でノミネートを果たしたことが、すでに快挙です。『鬼滅の刃』は、賞レースにおいても歴史を作ったと言えるでしょう。今後、アカデミー賞にもノミネートできるかどうかも、期待したいところです。
