12月22日、午前11時20分過ぎ。鹿児島県の種子島宇宙センターの管制室に流れたのは、凍り付くような沈黙だった。
この日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げたH3ロケット8号機は、約30分後に「日本版GPS(全地球測位システム)」と呼ばれる準天頂衛星「みちびき5号機」を、予定軌道へと切り離す計画だった。
しかし第2段エンジンの燃焼が予定より早期に終了し、ロケットの推進力が低下。これでH3打ち上げ失敗は、2023年に初号機に続き2回目であり、1000億円とも言われる巨額の血税が、一瞬にして太平洋の藻屑と消えたのである。
この打ち上げ失敗は金銭的損失にとどまらず、日本の宇宙開発にとって大きな打撃となった。その背景を、長年JAXAを取材してきたジャーナリストが解説する。
「GPSというのはそもそも、アメリカ軍が運用する『グローバル・ポジショニング・システム』の略称。私たちのスマホは、はるか頭上を飛ぶアメリカの軍事衛星からの電波を借りて現在地を割り出しているため、アメリカの衛星が日本の真上にいないことで、位置情報に死角が生まれていました。しかし、日本独自の『8の字軌道』を描く5号機が加われば、常に日本の真上に居座ることで高層ビル群や山間部でも電波が届き、このズレがセンチメートル単位まで絞り込まれる。そうなれば、ドローンが正確に荷物を届ける、あるいは自動運転車が隣の車線と間違えずに走行するなど、未来の日常基盤が出来上がるはずでした」
むろん、アメリカが軍事的な理由で電波を絞る、あるいは仮に有事でGPSが使えなくなるといった「万が一」の事態となれば、物流をはじめ日本の位置情報インフラは、一瞬にして機能を失ってしまうが、
「だからこそ、アメリカ依存というアキレス腱を克服するために進められていた国家プロジェクトが、日本版GPS『みちびき』による7基体制の構築でした。ところが今回の失敗で再び、数年の足止めを食らうことになりました」(前出・ジャーナリスト)
JAXAではこれまで打ち上げに使用していたH2Aの後釜として、今回の大型基幹ロケットH3を導入。H2Aはすでに引退しているため、今の日本にはH3以外に大型衛星を打ち上げる手段がない。
そう考えると、種子島の海に沈んだのは1000億円の損失に加え、近い将来、我々が手にするはずだった「アメリカ依存からの脱却」という「未来」だったのである。
(灯倫太郎)

