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なぜ「傑作」が苦戦しているのか? 映画『果てしなきスカーレット』が陥った“巨大配給”という落とし穴 <連載:アニメノミライ・ねとらぼ支店>

なぜ「傑作」が苦戦しているのか? 映画『果てしなきスカーレット』が陥った“巨大配給”という落とし穴 <連載:アニメノミライ・ねとらぼ支店>

「初週の興行成績が、前作の4分の1にも届かない」

 関係者が目を覆ったであろう、衝撃的な数字です。

 この状況を知り、居ても立ってもいられず、筆者は公開2週目の週末に郊外某所のシネコンへと足を運びました。

ライター:まつもとあつし

中学生のときに『王立宇宙軍 オネアミスの翼』をみてしまい、そこからアニメにのめり込む。そのまま大人になり、IT・出版・広告・アニメの会社などを経て、現在はジャーナリストとして取材・執筆をしながら、大学でアニメを中心としたメディア・コンテンツの教育・研究に取り組んでいる。ゲーム、特にJRPGやマンガも大好き。時間が足りない。

公式サイト:http://atsushi-matsumoto.jp/

X:@a_matsumoto

 ロビーはまだ興行が好調な『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』を目当てにした若い観客の熱気で溢れていましたが、『果てしなきスカーレット』のシアターに入ると空気は一変します。

 決して「ガラガラ」ではありません。映画好きとおぼしき落ち着いた年齢層の観客で、座席の3分の1ほどは埋まっていました。しかし、200人以上が入るハコ(スクリーン)としては、やはりちょっと寂しい光景です。

 ネット上では、作中のキーワードになぞらえて「虚無」だとか「細田監督はもうダメだ」といった辛辣な言葉も飛び交っています。

 しかし、実際にエンドロールを見送った筆者の感想は真逆でした。

「え? すごく良いんだけど……」

 3DCGで描かれるキャラクターの造詣と丁寧に描かれる所作は素晴らしいレベルだし、シェイクスピアの『ハムレット』を下敷きにした重厚な復讐劇は、大人が唸る見応えがある。もちろんドラマ的な粗もあるのですが、それを上回って余りある映像美が随所にありました。

 筆者は上映中、スクリーンに没頭していました。むしろここ最近の細田作品のなかでは一番好きかも……。なのにどうして……。映画館をあとにしながらそんな思いを巡らせました。

「いつもの細田作品」を期待した観客の戸惑い

 まず数字と体制を整理しておきましょう。

 2025年11月21日に全国300館規模で公開された本作。東宝とソニー・ピクチャーズによる共同配給という超大型体制で、制作費は推計25億円とも噂されるビッグプロジェクトです。

 配給側も本気でした。映画『国宝』などを手がけたエース級の宣伝プロデューサーを投入し、テレビスポットや街頭広告を大量投下する「王道のブロックバスター戦略」をとっています。

 しかし、初動ランキングはまさかの4位スタート。

 さらに過酷だったのはSNS上の反応です。中には「本当に劇場で観たのか?」と首をかしげたくなるような投稿も散見されます。誰かのつぶやいた「期待はずれ」という感想だけが一人歩きし、実際に観ていない層までがその言葉をコピーして拡散する――いわゆる「批判の再生産」が起き、負のバイラルだけが加速してしまったのです。

 なぜ、ここまでこじれてしまったのか。

 その要因は、作品の中身と「売られ方」の決定的な乖離にあります。

【時期】:細田作品おなじみの夏休みではなく晩秋の公開(制作が遅れたことに加え、鬼滅のような他のヒット作の影響でスクリーンに空きがなかったとも言われます)。

【映像】:手書きアニメ調ではなくフル3DCG中心。これまでの細田作品を象徴する透き通るような青空、躍動するヒロイン、ではなく、全体に暗く(延々死者の世界を彷徨うわけですから)、苦悩・痛みを感じさせる描写が続く。

【内容】:爽快な冒険活劇ではなく、シェイクスピアの『ハムレット』を下敷きにした重厚な復讐劇。歌劇のようなセリフのかけ合いやキャラクターの立ち回りは観客に一定のリテラシーを要求する。

 本来であれば動員の中核を担うはずのファミリー層には、重厚な内容はそもそもマッチしません。一方で、この作品を本来“大好物”とするはずの「コアな映画ファン・アニメファン」には、マス向けの宣伝の中に情報が埋もれてしまい、その魅力が届いていない。

 「誰に売るのか」というターゲット設定と、実際の作品の性質がズレたまま、巨大な流通網に乗ってしまった──。配給側の「本気」が空回りし、不幸なミスマッチを生んでしまったことこそが、この苦戦の正体ではないでしょうか。

配信元: ねとらぼ

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