12月23日に、2026年スーパーGT参戦体制の発表とメディア向け説明会を実施したHRC(ホンダ・レーシング)。ニューマシンを投入するシーズンでの王座奪還に向け、様々な体制強化を行なうことが明らかにされた。
2020年を最後にGT500クラスの王座から遠ざかっているホンダ陣営。2024年からはNSX-GTに代わってシビック・タイプR-GTを投入するも、強さを増すトヨタGRスープラに押される形となり、2年で2勝しかあげられなかった。2026年は新型プレリュードをベースとした『HRC PRELUDE-GT』を新規投入し、王座奪還を目指す。
スーパーGT・GT500は非常にコンペティティブなカテゴリーであり、車両・エンジンの開発領域が限られているからこそ、勝つためには様々な領域で細かい部分まで突き詰めていくことが求められる。そこでHRCはいくつか新たな取り組みを始動し、ホンダ陣営としての総合力アップを目指している。
その中で大きな変更のひとつが、テクニカルディレクターの新設。ホンダで約20年にわたってスーパーGT車両の開発を担ってきた長谷川彰大氏が就任する。佐伯昌浩ラージ・プロジェクトリーダーといった車両開発を指揮する首脳陣はそのままに、長谷川氏がホンダ陣営の全チーム・ドライバーとの連携を深めることで、現場の声をよりフィードバックして陣営全体の底上げを目指すという。
そしてもうひとつ大きな変更点と言えるのが、太田格之進と大津弘樹を起用するARTAの8号車が『Team HRC ARTA MUGEN』となることだ。チーム名からは「ワークスチームの誕生」とも捉えることができるが、ただHRCはこの動きについて、現状は将来的なワークス体制確立に向けた準備段階であると説明する。
HRCの渡辺康治社長は次のように話す。
「長期的には、4輪レースでワークス体制を確立することを目標としています」
「その第一歩として、スーパーGTにおけるレース運営を学ぶために、ARTAの8号車にHRCとして深く関与していきます。チーム名は『Team HRC ARTA MUGEN』とし、HRCから専任のエンジニアを配置するなど、チームへの関与を強めていきます」
「またカラーリングもARTAカラーにHRCのアイデンティティを融合させたデザインとなります。この取り組みを通じてHRCブランドの認知を高めることで、4輪ビジネスへの貢献も強化していきます」
またHRCレース運営室の桒田哲宏室長は、ARTAの8号車にHRCが関与する意義についてこう説明した。
「マシンを開発する上では、レース運営というものをより深く理解することも重要と考えております」
「今までも同じような取り組みをやっているものの、運営形態など、新しいことが常に出てきておりますので、学びの場として唯一の2台体制であるARTAに協力を仰ぎました」
「8号車の運営にHRCが入り込み、テクニカルディレクターの下で専任エンジニアが張り付いて、タイヤやマシンのセットアップを一緒に考え提案をしていき、レースではピット戦略にも関与していきたいと考えています。勝てるセットアップをどのように早く決めていくのか、しっかり現場で学びながら、それを開発に活かしていきたいと考えております」
また桒田室長は8号車の体制について、現在アメリカのHRC USがIMSAのメイヤー・シャンク・レーシング93号車でセミワークス体制を敷いていることに考え方としては近いと説明。そのノウハウを活かすためにも、93号車のドライバーとしてIMSAを戦った太田を8号車に迎え入れたのだという。
したがって太田のスーパーGT復帰は、北米カテゴリーで戦っていた太田を日本に「呼び戻す」といった文脈ではないという。渡辺社長も「太田選手は来年もアメリカでレース活動を続けてもらいますし、その先についても色々議論をして、最適なところに持っていきたいと思っています」と述べた。
ラインアップは「5台全てが勝てる」組み合わせ
その他気になるのが、2026年のドライバーラインアップだ。ドライバーの移籍も多かったが、例年と同様に経験豊富なドライバーと若手・中堅のドライバーを組ませる傾向にあると感じられる。
ただ今シーズン驚異の3連覇を達成したトヨタ陣営のau TOM'Sは、陣営内で最も勢いのあるドライバーによる“ドリームチーム”的なラインアップを組んでGT500を席巻してきたと言える。その陣容は2023年は坪井翔と宮田莉朋、2024年、2025年は坪井と山下健太。20代中盤〜30歳前後の、現役のスーパーフォーミュラドライバーとしても活躍するふたりを組ませた形だ。
ホンダ陣営で言えば、STANLEY TEAM KUNIMITSUの山本尚貴、牧野任祐組が最もそれに近いと言える。しかし2度のGT500王者山本は今年37歳とベテランの域に達しており、スーパーフォーミュラも2024年限りで引退。またスーパーGTにおいても、これまで山本が担当していたロングスティントを牧野が担当するようになったり、プレリュードGTのシェイクダウン走り出しを山本ではなく牧野が行なったりと、世代交代のフェーズに入っていることも確か。また山本本人も、今季最終戦後に2026年シーズンについて尋ねた際、「一旦色々と整理しようかと」と意味深なコメントを残していて、残されたGT500キャリアを意識しているような発言も気になるところだ。
海外報道では、2026年は共にスーパーフォーミュラでチャンピオン争いを繰り広げた太田と牧野任祐がコンビを組む可能性があるのではないか……そんな噂も飛び交った。桒田室長はラインアップ選定について「色々なパターンの検討」をしたことは事実だとしながらも、全てのチームが勝ちを狙えるラインアップを念頭に置いたと説明した。
「色々なパターンの検討は当然ながらやっております。その中で、1チームだけ強いチームを作るという考え方では、GT500でチャンピオンを獲ることはできないと考えております」
「5台で総合力をしっかり保つという考えの上ですので、ベテランと若手を組むと意識をしているつもりはありません。ドライビングスタイルや、クルマに対する欲求なども含めて、どういう組み合わせが良いのか、現場の方たちやチーム、開発陣など色々な方の意見を聞きながら、最終的に今回のラインアップにしました」
「我々としては5台全てをしっかり勝てるチームにする、ということを念頭に置きながら組み合わせたラインアップとなっています」

