「あの鏡は、信じるな」――。実話怪談界の雄・國澤一誠が、長年の取材で集めた禁断のファイルを解禁。日常に潜む異界への入口を、リアルな筆致で描き出すテキスト連載がついにスタート。第一夜は、事故多発地帯のカーブミラーに映り込んだ「ありえない光景」の真実に迫ります。
埼玉県で囁かれる「幽霊のイタズラ」交差点
皆様は、毎日ご自身の姿を鏡でご覧になりますか? 本日は、その「鏡」にまつわる、背筋が凍るような不思議な実話をお届けします。
今回の体験者であるA氏(埼玉県在住、40代男性)がこの出来事に遭遇したのは、今から十数年前のことです。
舞台となったのは、埼玉県内にあるとある交差点。そこは、なぜか事故が多発することで知られ、地元の一部の人々の間では「幽霊がイタズラをしている交差点」とまことしやかに囁かれていました。
しかし、A氏は仕事で初めてその道を通るため、そんな恐ろしい噂話は露知らず、ただ目的地へと車を走らせていました。
その交差点は、道幅が狭く、人通りも多い商店街の一角にありました。両脇には店舗が軒を連ね、車は自然とスピードを落とさざるを得ません。そのため、死亡事故のような重大な事故は過去に一度も発生していませんでした。
スピードは出せない。一時停止もある。そして、安全確認のためのカーブミラーも設置されている。にもかかわらず、なぜ事故が多発するのか? それは、実際に事故を起こした運転手たちが、口を揃えて同じ言葉を漏らすからです。
「あのカーブミラーは信じるな」
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カーブミラーに映る「ありえない光景」
外回りの営業職であるA氏は、約束の時間まで1時間ほどの余裕があったため、焦ることなくゆっくりと運転していました。
「そろそろこの辺りだな。駐車場を探して停めるか」
そう考えながら、件の交差点に差し掛かりました。
A氏は一時停止線で車を止め、設置されたカーブミラーで左右の安全を確認します。ミラーには、誰も映っていません。ゆっくりとハンドルを右に切り、曲がろうとした、その瞬間――。
「危ない!」ガチャン!!
突然の出来事に驚き、車を急停車させました。ぶつかる寸前で、一台の自転車に乗った男子高校生が転倒したのです。
慌てて車を降り、「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」と駆け寄ります。幸い、車との接触はギリギリで避けられ、高校生に怪我はありませんでした。A氏は心から安堵し、名刺を渡し、その場を後にしました。
車に戻ったA氏の心臓は、まだバクバクと激しく脈打っていました。その戦慄の瞬間を何度も頭の中で反芻するうち、A氏はある「違和感」に囚われます。
「確かに、あのカーブミラーには、誰も映っていなかったはずだ……」
ミラーに映っていたのは、交差点の角にあるお米屋さんと、その隣に佇む古い喫茶店。そして、喫茶店の前をエプロン姿のスタッフが掃き掃除をしている光景だけでした。
自転車はもちろん、通行人もいなかった。それなのに、なぜ、あの男子高校生は突然現れたのか?
