
古代人類が初めてアフリカ大陸を出たのは、約180万年前と考えられています。
この歴史的な出来事を成し遂げた主役は、長い間「ホモ・エレクトスただ一種である」と考えられてきました。
しかし今回、ブラジル・サンパウロ大学(USP)の研究で、そうした従来の説を覆す結果が示唆されました。
どうやら、最初の「アフリカ脱出」は、私たちが想像していたよりもずっと多様な顔ぶれによって行われていた可能性があるのです。
研究の詳細は2025年12月3日付で科学雑誌『PLOS One』に掲載されています。
目次
- ドマニシ遺跡が突きつけた違和感
- 歯が明かした「二種類の人類」
ドマニシ遺跡が突きつけた違和感
この議論の中心にあるのが、ジョージア共和国にあるドマニシ遺跡です。
ここから見つかった人類化石は、アフリカ以外で発見された最古級のものとして知られています。
ところがよくよく調べてみると、ドマニシで見つかった複数の頭蓋骨は、同じ時代・同じ場所のものとは思えないほど姿が異なっていました。
脳が入る部分が小さく、顔や顎が非常に大きい個体もいれば、より現代人に近い印象の個体もあったのです。
これまで研究者の多くは、この違いを「同一種の中での性差」、つまり体の大きなオスと小さなメスの違いだと解釈してきました。
しかし、それだけで説明するには、形の違いがあまりにも大きすぎるのではないかという疑問が残っていました。
歯が明かした「二種類の人類」
そこで注目されたのが「歯」です。
歯の表面を覆うエナメル質は非常に硬く、形や大きさは進化の違いをよく残します。
最新の研究では、ドマニシ人類の奥歯の大きさを、数多くの古人類化石と統計的に比較しました。
その結果、驚くべきことが明らかになります。
ドマニシの中でも特に大きな顎を持つ個体は、ホモ属よりも、さらに古いアウストラロピテクス類に近い歯の特徴を示していました。
一方、他の個体は初期のホモ属に近い特徴を持っていたのです。
チームは、これらの違いが単なるオスとメスの差では説明しきれないと結論づけました。
つまり、ドマニシには同じ時代に、進化段階の異なる二種類の人類が共存していた可能性が高いというのです。
人類の旅立ちは、もっと複雑だった
この発見は「ホモ・エレクトス一種がアフリカを出た」という単純な物語を大きく書き換えます。
人類の拡散は、選ばれた一系統の快進撃ではなく、複数の人類がそれぞれの姿のまま挑んだ、試行錯誤の連続だったのかもしれません。
最初の「アフリカ脱出」を果たしたのは、たった一種類の人類ではありませんでした。
人類史の幕開けは、想像以上に多様で、にぎやかなものだった可能性が高まっているのです。
参考文献
Two ancient human species came out of Africa together, not one, suggests new study
https://phys.org/news/2025-12-ancient-human-species-africa.html#goog_rewarded
元論文
Testing the taxonomy of Dmanisi hominin fossils through dental crown area
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0336484
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

