クリスマスは頂点ではなく受精ラッシュの開始ベル

ここまでの話は主に文化や行動の側面でしたが、妊娠にはもちろん、生物学的な要素も関わっています。
人間は、羊やシカのような「はっきりした発情期を持つ季節繁殖動物」ではありませんが、それでもごく弱い形で「繁殖に向きやすい季節」が存在するのではないかとする研究もあります。
精液についても大規模な研究やレビューでは、精子の濃度や一部の運動性が冬から春にかけてやや高く、暑い夏には低下する傾向が見られたという報告があります。
また、先ほど触れた月経管理アプリのデータと出生統計を組み合わせた解析では、北半球では秋から初冬にかけて、統計モデル上「季節的な受胎しやすさ」がわずかに高まっている可能性が示されました。
季節による差は決して多くはありませんが、一部解析では統計的に有意な差となっています。
もし、人体側にそうした「冬寄りの妊娠しやすさ」があるとすれば、そこに文化的な祝祭日の波が重なると、効果はさらに強調されることになります。
秋から初冬にかけて体のコンディションがわずかに妊娠向きの状態になっているところへ、クリスマス〜年末年始という恋人・家族イベントが訪れることで、一年のなかでも特に妊娠しやすい「シーズン」が形づくられていると考えることができます。
つまり、クリスマス〜年末年始に妊娠が多くなる理由はゆるやかな生物学的な季節性の上に、「祝祭日としてのクリスマス」という文化的なピークがきれいに重なっているダブルパンチのような結果として解釈できるのです。
そして肝心の結論ですが、クリスマスの夜に空を見上げながら、「今ごろ世界中で沢山の生命の神秘が起きているのだろう」と想像してしまったとしても、それはあながち的外れな想像ではありません。
ただ科学的な正確性を期すならば、クリスマスの夜に響く鐘の音は受精ラッシュの頂点というより、その後数日に渡り長く続くラッシュの開始ベルと言えるでしょう。
元論文
Human Sexual Cycles are Driven by Culture and Match Collective Moods
https://www.nature.com/articles/s41598-017-18262-5?utm_source=chatgpt.com
Unmasking Seasonal Cycles in Human Fertility: How holiday sex and fertility cycles shape birth seasonality
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.11.19.20235010v1?utm_source=chatgpt.com
Seasonality-Public-Repo
https://github.com/lasy/Seasonality-Public-Repo?utm_source=chatgpt.com
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

