今すぐできる!インクルーシブ教育の実践アイデア
運動会で応援に関わる子どもたち。行事の前に対話を重ね、子ども一人ひとりの声を生かすインクルーシブ教育の考え方を象徴する場面—— 最後に、インクルーシブ教育の実践例を教えてください。
「子どもたちが学び方を選択できるシステムを取り入れてみるところから、始めてみてはどうでしょうか。例えば、“違いをなくす”のではなく、“違いを生かす”空間づくりです。従来のように全員が正面を向いて並んで座るスクール形式のレイアウトから、島型やサークル型に変えるだけで、物理的にも心理的にも距離感がぐっと縮まりますよね。他にも、授業で問題を解くときに、ヒントのないプリントと、少しだけヒントが書かれたプリント、多くのヒントが書かれたプリントなどを用意し、どれを使うかを子どもたち自身が選べるようにするといった工夫もあります。また、運動会や遠足の前に、子どもたちのアイデアや本音に耳を傾けて対話してみることも大切です。小さな工夫の積み重ねが、インクルーシブ教育の第一歩になると思います」
子どもたちが学び方を選択できる教室レイアウトの例。中には、床に座り、ベンチを机のようにして使う子もいるそう。通常の椅子をサークル上に並べて実施することもできる(写真提供:青山新吾)—— 子どもと接するときに意識すべきことはありますか。
「常に問いかけてください。『どうしてできないの?』ではなく『どうすればできるかな?』というふうに、子どもたちを尊重しながら常に自分自身に問いかけてみると良いと思います。また、クラスの中で“違い”が話題になったときこそインクルーシブ教育のチャンスです。『いろんなやり方があるね』『どっちもいいね』と多様性を肯定する言葉掛けを意識しながら、仲間として対話に加わって一緒に考えてみると、いろんなことが見えてくると思いますよ」
多様な時代を生きる子どもたちにとって、インクルーシブ教育は、単なる教育の一手法ではなく、未来の社会を築くための根幹です。だからこそ、学校や家庭の中で、私たち大人が率先して互いの違いを認め合う姿を示していくことが、何よりも大切なのではないでしょうか。目に見えない違いがあること、耳を澄まさないと聞こえない声があることを忘れずに、一人ひとりの違いが響き合う教室を未来へつなげていきましょう。
PROFILE 青山新吾(あおやま・しんご)
1966年兵庫県生まれ。ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授、同大学インクルーシブ教育研究センター長。岡山県内公立小学校教諭、岡山県教育庁指導課、特別支援教育課指導主事を経て現職。中央教育審議会初等中等分科会教育課程部会特別支援教育ワーキンググループ委員。臨床心理士、臨床発達心理士。著書に青山氏が編集代表を務める『インクルーシブ教育ってどんな教育?』や岩瀬直樹氏との共同著書『インクルーシブ教育を通常学級で実践するってどういうこと?』、『エピソード語りで見えてくるインクルーシブ教育の視点』(すべて学事出版)ほか多数。
text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock
資料提供:青山新吾
