甘いお菓子を口にするとふっと心が和らぎ、気持ちが穏やかになるものだ。実はこの感覚には科学的な裏付けがあると語るのはフードコーディネーターの宮本二美代氏。お菓子を食べることで体内で幸せホルモンが分泌されるというのだ。
書籍『教養としてのお菓子』から一部を抜粋・再構成し、江戸時代にルーツを持つ「おやつ」の語源とともに、お菓子の効能を解説する。
甘いものが持つ魔法で起きる「脳内の状況変化」とは?
商談の合間に出される一粒のチョコレート。訪問先への手土産に選んだ老舗の和菓子。社内でのブレイクタイムに配られる焼き菓子。
実はこれらすべてが、ビジネスを円滑に進める〝見えないツール〟として機能しています。「お菓子」を知っている人は、人間関係を円滑にし、第一印象を味方にし、謝罪の場をも和ませるのです。
「お菓子の力」がビジネスや社交の場にどう作用するのかを、具体的なエピソードとともにひも解いていきます。
お菓子を通じて人と人とがつながり、会話が生まれ、心が通い合う。ビジネスシーンでは、手土産としてのセンスやタイミングで印象が大きく変わることもありますし、家庭では子どもの笑顔や家族団らんの中心にお菓子があることも多いもの。
お菓子を口にすると、ふっと心が和らぎ、気持ちが穏やかになる──そんな経験は誰しもあるのではないでしょうか。実はこの感覚には、しっかりとした科学的な裏付けがあります。
甘味は、私たちの脳で快感を生み出す「報酬系」を刺激します。特に砂糖は脳内のドーパミン分泌を促し、「嬉しい」「楽しい」といった感情を引き出します。
甘い香りや美しい見た目は五感を刺激して、脳内で「幸せホルモン」と呼ばれる化学物質が分泌されます。これらの効果は、ストレスの多い現代人にとって、心の潤滑剤のような存在です。この反応はほんの数秒で起こり、日常の中で瞬時に気分を切り替える手助けとなります。
お菓子を食べると「ほっ」としたり、「癒された」と感じるのは、このようなホルモン作用によるものなのです。
だからこそ、ストレスの多い現代社会では、お菓子は単なる嗜好品ではなく、〝心の栄養〞としての役割も担っているわけです。
さらに、お菓子は単に食べるだけでなく、香りや彩り、口当たりといった多面的な要素によって、感情や行動にも影響を与えます。疲れた時に甘いものを欲するのは、体がエネルギーだけでなく「安心感」を求めている証拠なのです。
お菓子は五感すべてを通じて、脳と心に働きかける〝小さな幸せのカプセル〞といえます。
3時の「おやつ」にも由来がちゃんとあった
「3時のおやつ」は、江戸時代の和時計に由来します。当時は1日を2時間ごとに区切り、午後2時頃は「八つ時」と呼ばれていました。人々は1日2食だったため、小腹が空くこの時間に軽食を摂る習慣が生まれ、焼き芋や団子、果物など素朴なおやつを楽しんでいました。
また、子どもに人気だった屋台スイーツは、麦芽糖から作った「水飴」だったという記録が残っています。「おやつ」は、「お+やつ(八つ)」が語源。
明治以降、西洋式の時間制度が導入され、「八つ時=午後2時」が「3時のおやつ」として定着しました。それは単なる間食ではなく、「甘いもので、ほっと一息つく」──そんな日本人の心を映す、大切なひとときなのです。
時代が令和へと移り変わっても、「おやつの時間」に込められた想いは同じです。それは〝ちょっと一息つく〞という、心と体へのご褒美の時間。現代では「スイーツタイム」と呼ばれる午後のおやつですが、そのルーツが太陽の動きとともに暮らした和時計文化にあると思うと、なんとも風情を感じます。
おやつは単なる空腹しのぎではなく、人が集い会話を楽しむ時間でもありました。縁側でお茶と菓子を分け合う光景は、江戸から昭和初期にかけて各地で見られ、「一緒に食べる」ことが人と人の距離を縮めてきたのです。
現代においてもおやつは間食にとどまらず、「気分転換」や「心の切り替え」の時間として重要な役割を担っています。午後にチョコを一粒、家事の合間にクッキーを一枚。それだけで心が軽くなり、「もうひと頑張りしよう!」という気持ちが生まれるのです。
おやつは、時間に追われる人ほど大切にすべき〝心の栄養〟といえるでしょう。

