
日本代表エースはいかにしてオランダで17戦18発の大爆発に至ったのか。変わらない“アヤセイズム”の真髄がそこにある【現地発】
2016年12月31日、高校サッカー選手権1回戦、鹿島学園はFW上田綺世の後半30分、37分の連続弾で高川学園に逆転勝ちした。横浜・三ツ沢球技場のコンコースに現れた背番号10を記者たちが囲んだ。
——この2試合で2点取った。今大会、何点取りたい?
「僕は数字を決めてない。雑誌で『得点王争いのダークホース』と書いていただきましたが、僕は得点王にこだわってない。目標の得点数を自分の中で決めてしまうと、そのことに固執し、全体が見られなくなってしまう。
点を取ることが僕の仕事ですが、副キャプテンとしてチームのことをするのも仕事です。自分の記録よりも、優勝できなかったら意味がない。チームが勝つために、自分が得点王を(結果として)獲れたら良いと思います」
今季の上田はフェイエノールトのエースストライカーとして18ゴールを量産し、オランダリーグの得点王争いでトップを独走している。9月、10月と続けてクラブ月間最優秀選手、10月のリーグ月間最優秀選手に選ばれ、クラブチャンネルで「嬉しいです」と満面の笑みで答えている。
しかし9年前の大晦日と比べても、アヤセイズムは変わらない。例えば今年の夏。今シーズンの目標を尋ねると彼は「今季の目標は怪我なくプレーすること。怪我なくプレーして、1シーズン通してチームに貢献したい」と答えた。ここに目標とするゴール数や個人賞などいっさいない。得点王になることはストライカーの勲章なのに、だ。
この半年、上田はコメント通りのプレーを披露し続けた。その一例を挙げると10月5日のユトレヒト戦。2-2のまま終盤を迎えた白熱の一戦は88分、相手の選手たちが固めたゴール前を上田が技術・肉体・気持ちの三拍子揃ったプレーでこじ開け、執念の勝ち越し弾を蹴り込んだ。
そのユトレヒト戦での上田の得点シーンより私の記憶に残るのは、後半アディショナルタイムのボールキープ。コーナーフラッグ付近で相手を何人も背負った彼は、強靭なフィジカルで激しいデュエルを繰り広げ、二度も時計の針を進めることに成功した。ちょうど、このフォア・ザ・チームのアクションが「ヘット・レヒユン」と呼ばれるフェイエノールトのゴール裏サポーターの目の前だったので、スタジアムの盛り上がりは凄かった。
今年最後の試合、トゥベンテ相手に1-1で引き分けると、センターサークル付近で上田はしばし天を仰いで悔しそうな表情を浮かべていた。リーグ2位、つまり来季のチャンピオンズリーグ出場圏内にいるとは言え、フェイエノールトは公式戦で1分け3敗の不振期。上田も少しゴールから遠ざかっている。それでもいくつかの点をつないで線にしてみると面白い。
8月16日の対エクセルシオール戦(2対1の勝利)、前半の上田はほとんどボールタッチがなかったが、それでも前線で相手のCB2枚を引き付けることによって、味方にスペースを作る戦術的役割を遂行していた。ストライカーの中には降りてボールタッチを増やしてリズムを作るタイプもいるが、上田はそれをせず先制ゴールを挙げてエースの務めを果たした。
「相手のCBと戦うことがチームのビルドアップで求められていること。なるべく高い位置を取って、中盤にスペースを作る。僕は、降りて組み立てるタイプでもないので、空けておく」(エクセルシオール戦後の上田)
10月2日のヨーロッパリーグ、アストン・ビラ戦で上田はコーナーキックから高打点のヘッドでゴールネットを揺らしたが、味方のファウルによって得点が認められなかった。
ロビン・ファン・ペルシ監督は今季開幕直後、「うちの選手のフィジカルデータはなかなか良い。なかにはプレミアリーグレベルの選手が何人かいる」と語ったことがある。その答え合わせを指揮官とするタイミングを逸したものの、アストン・ビラ戦の豪快ヘッド、ユトレヒト戦の後半アディショナルタイムという遅い時間帯でも衰えないデュエル強度などを振り返れば、ファン・ペルシ監督の意図した選手のひとりは上田のことでほぼ間違いないはずだ。
日本人選手たちがよく「Jリーグと違って、欧州のリーグは思わぬところから足が出てくる」と言うが、アストン・ビラ戦では上田が相手DFの気付かぬところから足を伸ばしてボールに先に触るシーンがあった。また、中盤に降りてビルドアップに絡んだり、スルーパスを出すなど、アストン・ビラ戦はより幅広くプレーに絡みだした時期でもあった。
トゥベンテ戦での上田を「良かった」とは言えない。しかし、フェイエノールトの中盤が崩壊してしまう、ストライカーにとっては苦痛の試合展開の中でも、上田は右から左にターンしてボールを逆サイドに散らしたり、前線で相手を背負いながらポストプレーしたり、試合終盤に相手ゴール前へ迫ってシュートを撃ったりした。ひと言でまとめれば「不発」で終わる試合だったが、それでも上田のゲーム関与とストライカーとしての雰囲気に「アヤセがピッチの上に立ち続けてくれないと、フェイエノールトはどうしようもない」と信じたサポーターがほとんどだったはずだ。
上田はこの半年間、フィットし続けた。Jリーグ時代から相手DFを恐れさせたフィジカルは欧州でも健在で、セルクル・ブルージュに移籍後もゴールマシーンぶりを見せつけたが、フェイエノールトにステップアップ後、1年目はサンティアゴ・ヒメネスの高い壁に遭い、2年目は好調期があったものの怪我に泣いた。昨季つかんだ好感触をシーズン通じて披露し続けること――。それが今夏の「今季の目標は怪我なくプレーすること」という短くも、すべてが詰まった目標設定につながっている。
フェイエノールト番記者は言う。
「ファン・ペルシも言っているが、アヤセ好調のベースはフィットネス。プレシーズンの彼は、2週間、DFのビルドアップに対してプレッシングを掛け続けることを繰り返した。DFのほうが人数は多いから、簡単にボールを回されてしまい、FWは大変だけど、彼は一生懸命そのことに取り組み、フィットネスが向上した。スパルタ戦の1点目、あれこそ今季の彼だった」
ゴール間近で相手DFを背負いながら、反転シュートを決めたスパルタ戦の得点(8月31日/4対0の勝利。上田は2得点)はパワー、切れ、相手の力の利用といったことが揃ったものだった。
今季のフェイエノールトは野戦病院のようで、怪我人やコンディション不良者が相次いでいる。しかし上田のリーグ戦出場時間(1405分間)はGKティモン・ヴェレンロイター(1530分間)、DF渡辺剛(1440分間)に次ぐ、チーム内3番目という好スタッツだ。ちなみに昨季はシーズン通じて1204分間、2季前は815分間に過ぎなかった。
フィットネス向上に付随しているのか、コツを掴んだのか、それとも日々取り組んでいることが成果として出ているのか。要因はともかく、ステップワークが軽やかになったことで、上田は相手にとって捕まえづらい選手になった。また左右に反転して逆サイドに振るパスがスムーズになった。それが彼を見てきた“点と線”の一部だ。
しかし、いい意味で変わらぬものがある。それは「具体的な得点数の目標はない」「得点王を狙ってない」ということ。
11月27日、上田が先制ゴールを決めたセルティック戦(EL)後、試合の話を聞き終えてから、念のため、次のような確認の質問をした。
――今、上田選手はオランダリーグ得点王で、あまりそういうところは関係ないというのは私にも想像が付きます。
「はい」
――今日も上田選手はゴールを決めました。上田選手は以前、「自分が決めたゴールを繰り返しチェックして言語化し再現性を高める」と言ってました。そういうこと(=アスリートとしての成功体験)が続くと良いムードで次の試合に臨めますね。
「そうですね。FWとして良いリズムにはなっていく。毎試合、得点取ったりすることを目ざしていく上で、良いテンポができてくると思います」
――次の1点。それが大事ということですよね
「あとはチームを勝たせたりとか。自分が(セルティック戦でチームを勝たせるために)もう1点、2点取れたはず、ということを振り返りたい」
かつて三ツ沢で上田は言った。
「常に右足、左足、頭で同じような精度でシュートを打てるよう、どんな局面でも点を取れる、練習から意識してます。特に今日のような苦しい状況で点を取って、チームを助けるプレーヤーになりたいと思ってやってきた。それが最後の最後に出て良かったと思います」
今の上田に通じるこの言葉。育成年代でも、トッププロになっても変わらぬ信念をピッチの上で表現し続ける。9年後、ファン・ペルシ監督は「アヤセは点を取れない試合でも、チームのために働き続ける大事なプレーヤーなんだ」と称賛を贈り、ヘット・レヒユンが今季唯一、上田にチャントを歌う。
前半戦は終わった。「1シーズン、怪我なくプレーし続ける」という目標達成まであと半年。これを成し遂げることができれば、おのずとゴール数は増えるし、チームを助けることができる――。これがアヤセイズムの一端なのではないか。
取材・文●中田 徹
【記事】「本当に楽な組だ」「日本のグループよりよかった」韓国代表の組分けに韓国のファンは歓喜!「イタリアを避けた!」【北中米W杯】
【記事】「バカげた契約」マドリー退団→5部でプレーの22歳MF中井卓大に古巣地元メディアがチクリ「日本のSNSスター」「7試合しか出場しなかった」
【画像】どこもかしこもデザイン刷新! 世界各国の北中米W杯“本大会用ユニホーム”を一挙公開!
