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オダギリジョー、深津絵里と『カムカムエヴリバディ』以来の共演 「(脚本を) 深津さんに当てて書いた」<オリバーな犬>

オダギリジョー、深津絵里と『カムカムエヴリバディ』以来の共演 「(脚本を) 深津さんに当てて書いた」<オリバーな犬>

オダギリジョー
オダギリジョー / 撮影=MANAMI

NHKのドラマシリーズとして異彩を放った『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』が、ついに『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』としてスクリーンへ。脚本・演出・編集・出演の全てを務めるオダギリジョー監督が、映画化への意外な経緯や、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』以来の共演となる深津絵里ら、豪華キャストとの撮影秘話、さらには自身のフィルモグラフィーへの覚悟、そして今のエンタメ界に見るものを語り尽くした。

■まさかの映画化。テレビの枠に収まらなかった“オリバー”の世界

――ドラマの映画化、ファンからは驚きと喜びの声が多く上がっています。監督ご自身は、この作品のどういった部分が人々を惹きつけていると感じますか?

何なんでしょうね。あまりそうした事は意識しないようにしています。自分の作りたいものを作っているだけなのですが、実はそれが逆に珍しいのかもしれないですね。特にテレビドラマは、決められた予算や枠の中で、ある程度制約の効いた作品が作られる傾向にありますからね。

だから、どうしても枠を飛び越えたり、挑戦的なことがしにくいのは事実です。でも『オリバーな犬』はスタートからして違っていて、まず自分が納得できる脚本を書き、それに対してどこが手を挙げてくれるか、というある意味『映画的な作り方』だったんです。通常のテレビの取り組み方と違うからこそ、意気込みや挑み方が新鮮に見えたのかも知れません。そこが刺さる人には刺さってくれた要因の1つなのかなと思います。

――映画化にあたり、よりパワーアップさせようという意識はありましたか?

自分では、やっていることはそんなに変わっていないつもりです。前回のテレビシリーズの時から、劇場にかけても遜色のないクオリティで作っていましたし、例えば音響も、当時から劇場でかける想定で設定していたんです。今回は映画ということで、そうしたこだわりがより細かく、より繊細に表現できるため、結果的にはかなりパワーアップしているとは思います(苦笑)。

――そもそも、どのタイミングで映画化を構想されたのでしょうか。

構想したというより、結果的に「映画にせざるを得なかった」というのが正直なところなんです。元々はシーズン2の後に『もう1エピソード書いて欲しい』と言われ、新たに脚本を書いたのですが、それはどう頑張っても『テレビドラマの制作費では成立できない』と言われてしまったんです。『だったら映画にしましょうか…』というアイデアが出て来たんですね。

――ドラマの時から映画的だったとはいえ、映画ならではの構成や演出で意識したことはありますか?

テレビシリーズは45分の中で盛り上がり(ドラマ性)を作ったり、「来週に期待させる」引っ張りも必要だし、全話を通しての事件の見せ方を計算する必要がありました。言ってみれば、多くの計算の上に成り立たせていたんです。でも映画は、一本をどのように見せるかは作り手それぞれ。自由の上に成り立っている総合芸術なので、決め事も制約もありません。ただ、だからこそクリエイティビティが問われますよね。簡単に言えば、ストーリーを追わせるだけではなく、映画として哲学的にも美学的にも、自分の主張が伴わなければダメだという思いがありました。

もっと現実的な話をすれば、テレビの画面で作品を観るのと、劇場の大きなスクリーンで作品を観るのでは、必然的に画面の構図は変わってきます。例えば、顔の寄り(アップ)は、テレビ画面であれば有効なんでしょうが、劇場のスクリーンでは、時に圧迫感を与えます。スクリーンではグループショットくらいでも十分に寄り(アップ)と同じくらい表情が伝わるんです。編集にしてもスクリーンの大きさでの目線の動きを考えています。音響で言えば、外の音が遮断される劇場だからこそ、繊細な音作りができました。5.1サラウンドで、この場所にこのくらいのレベルで…と、家のテレビでは再現できない音の世界になっています。

■深津絵里との再会、唯一無二のキャスティングが生まれるまで

――本作には深津絵里さんが出演されていますが、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』以来の共演ですね。オファーの経緯や、改めて感じた俳優としての魅力についてお聞かせください。

『カムカム』の撮影中に、『オリバー』シーズン1のオンエアが始まったんです。深津さんには「時間があったら観てみてください」と伝えていていたら、「すごく面白かったです」と言ってくれて。僕はちょうどシーズン2の脚本を書いている時期で、「深津さんだったらこういう事が起きたらどうします?」なんて、勝手に相談に乗ってもらったりもしていたんです(笑)。

深津さんもそういったモノづくりの気持ちを持っている人だし、『オリバー』のような挑戦的な作品に興味を持つタイプの人だと直感的に分かったので、いつか良い時にお願いしたいという気持ちはありました。今作の脚本を書く時にはまだやってくれる確証はありませんでしたが、やってくれるはずと信じて、深津さんに当てて書いていました。

現場でのすごさで言うと、ある日ドローンを使った撮影があったんです。車の真俯瞰から海へ行き、そしてホテルの庭へ移動すると、さっきの車に乗っていたはずの登場人物が現れる…という複雑な動きをワンカットで撮影するという、非常に難しいカットでした。10テイク撮っても、20テイク撮っても上手くいかず、その日は泣く泣く諦めることになりました。それだけでも『ええ!』っていう話じゃないですか(苦笑)。改めて別の日にまた挑戦し、結局、合計30テイクくらい撮ったと思います。それだけ同じ事を続けると、スタッフもキャストも疲弊してきますよね。

後で池松(壮亮)くんから聞いた話ですが、「もう一回行きます!」というスタッフの声が聞こえる度に、みんな「はあ…またか」となっていたのに、深津さんだけは一度も文句を言わずこなしていたそうです。その姿勢には、池松くんも驚いていました。作品に対する誠意や覚悟が表れていますよね。

――他のキャストの方々も、監督が信頼を寄せる方ばかりですね。

もちろんそうですね。自分の大切な作品ですから、キャスティングに関してはかなり慎重に決めています。フォロワー数が多いとか(笑)、流行っているとかは全く関係ありません。俳優として信用、尊敬できる人にだけ、声をかけていますね。キャスティングは作品の顔でもありますし、その顔ぶれからセンスが見えるじゃないですか。

実は、オダギリ組はテストをしないんです。現場では動きだけを説明して、とにかく回していきましょう!というスタイルなんですね。そんな現場で『どうすれば良いですか?』みたいな人がいると進みませんからね。最低限、芝居は自己責任として、考えて来てくれる俳優だけが招かれる場、と思って貰えると分かりやすいかも知れません。

自分は本業が俳優なので、小手先の芝居では誤魔化せないし、芝居の本質を知っています。そういう意味では、かなり緊張感のある現場ですが、ただ確かなのは、芝居の良し悪しがわかるからこそ、編集でそれを活かせるんです。自分の作品の中で、『ひどい芝居してるな』というようなシーンはないはずです。参加してくれた俳優全ての方の良さを引き出していると思います。

■「自分のフィルモグラフィーに残るもの」としての覚悟

――監督は以前、「映画はアート性、テレビはエンタメ性が大事」とおっしゃっていましたが、本作はその両方を融合させたのでしょうか。

元々がテレビシリーズなので、エンタメ性が前に出ている作品なのは確かです。ただ、正直な話をすると、あまり映画にしたくなかったんです。自分のフィルモグラフィーにエンタメがあることが許せない気がしていて(苦笑)。

――そもそも、なぜエンタメ作品を作ろうと思われたのですか?

コロナ禍で「不要不急」という言葉が飛び交い、映画館や劇場に行くことも規制された時期がありましたよね。その時、自分が携わっている仕事は「不要不急に引っ掛かる、言わば生活に必要のない世界なんだ」と否定されたような気がしたんです。でも同時に、こういう苦しい時こそアートやエンタメの役割があるんじゃないかと気付いたんですね。自宅にこもっているからこそ、アートやエンタメによって、一時的でも苦しみを忘れ、現実逃避させてくれる世界が必要なんじゃないか…と思たんです。だったら、開き直って思い切りテレビでエンタメを作ってみよう!と思ったんですね。

――とはいえ、単なるエンタメで終わらない、監督ならではの作家性を強く感じました。

エンタメはエンタメとして単純に楽しんでもらいたい思いはありつつも、だからと言って中身の薄いものにはしたくないですもんね。今は分かりやすい、伝わりやすい作品が求められる時代なのは分かっていますが、現状の日本映画や時代に抗おうとしているのかもしれません。観客がそれぞれ自由に受け取ってもらえれば、と思います。

■効率主義の時代にこそ届けたい、エンターテインメントの本質

――「劇場で観てもらう」ということに、強いこだわりを感じます。

そうですね。先ほども話しましたが、全ては劇場で見てもらうために設定しているので。家のテレビやパソコンで観られると、この作品の良さは7割も伝わらないと思っています。最近は映画館で映画を観る機会が減っているかも知れませんが、映画館じゃないとできない体験を、是非とも楽しんでもらいたいですね。

――今の日本のエンタメ界や映画界の現状を、どう見ていらっしゃいますか?

なかなか厳しいですよね、特定の作品がスクリーンを独占してしまう状況ですからね。動員が悪いと判断されるとすぐに打ち切られますしね。そもそも動員の見込める作品にしか制作費が集まらないのもそうした状況が絡み合っているんでしょうけど、映画ファンの一人としては、もっと色んなタイプの映画が観たいし、多様性を求める土壌であって欲しいと思っています。

――そうした状況に対して、この作品で何かを提示したい、という思いはありますか?

ターゲット層を考えて作ったりはしていないんです。ただ、思いの外、子供たちの反応がすごく良いんです。小学生や中学生たちが笑って観てくれるんですね。大人は難しく考えすぎているのかも知れないですね。先日も小学生を集めて『親子試写会』を開催したんですが、やはり盛り上がって観てくれていました(笑)。

日本の映画館って、笑ったり、音を出したりすること自体がタブーのように思われていますが、子供たちのように周りを気にせず笑いながら観てほしい作品です。自分では少しシネフィルぶって(苦笑)、こだわりを詰め込んでいる映画だと豪語しておきながら、実際は子供たちに喜ばれている、という不思議な現象をまだ理解できていませんが(苦笑)、だからこそそんな映画の底力を信じていたいと思っています。

◆取材・文=磯部正和、撮影=MANAMI、スタイリスト=西村哲也、ヘア&メーク=砂原由弥(UMiTOS)

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