映画ポスターコレクターの世界
──井上さんは希少な映画ポスターをどのように収集してきたのですか?
今はネットオークションがあるので、どこにいても容易に手に入る時代になりましたが、私が集め始めた30年前は、当時でも数少なかった映画専⾨ショップに⾏く、もしくは人を介して情報を交換するという2つしか手段がなかった。映画のポスターは非売品なので、一般人に入手できるものではありませんでした。いわば使い捨ての広告物。現存数も少なく、希少性が高いのでコレクターは余計に頑張るわけです。当時は大変でしたが、今思えばそれが面白かったし、楽しかったなあと思います。あの人とあそこで会ったから、このポスターが手に入ったんだということを考えると感慨深いものがあります。私以外にも、コレクターの方々にはそれぞれのストーリーがあると思うんです。「このポスター、自分のはこうだった」とか「このポスター見たことがなかった!」とか。今回のポスター本を通じて、その方自身のストーリーも楽しんでいただけるのではないかと思っています。
──ちなみにポスターはどのように保管されているんですか?
ポスターの大きさによっても違いますが、折ってビニールに入れて重ねたり、筒に入れたりとか。私は、一般住宅に住んでいるので、湿気からポスターを守るため、除湿器を使っています。あとは、直射日光を避けて日焼けしないようにすることと、水害や火事には気をつけています。世界各国のポスターは国別に分けたりもしています。
幻の存在といわれてきた『姿三四郎』初公開版ポスター
──『姿三四郎』のポスターはなぜ“幻”なんですか?
本作の初公開時ポスターは、昭和18年に刷られました。当時は戦時中なので、紙自体がほとんどない。それに加えて、政府が情報統制を行っていたので、このポスターはものすごく貴重です。
──どこから手に入れたのですか?
このポスターはイギリス在住のコレクターから入手しました。ポスターは紙モノなので、その匂いや紙の触り⼼地で制作年代を判断しなければならない。画像だけだと判断がつかないので、現物を見るためにイギリスまで行きました。
──実際に手に入れてみてどんな気持ちでしたか?
交渉自体は大変でしたが、誰も知らないポスターを所有していることがとても嬉しかったし、黒澤監督の映画ポスターの中では最重要ポスターの1枚になると思いました。そして、このポスターの存在が知られないままになってしまうのは悲しいことだと思い、全世界の黒澤映画ファンの方々にも知ってもらいたいという気持ちで本書でもポスター掲載ページの先頭にセレクトしました。それを踏まえて、ポスター本企画の大きな要因として、この書籍が起爆剤になって、知られていない希少なポスターが発見されるなんてことがあったらいいなとも思います。
──素敵な考え方ですね。キャッチコピーの担当が淀川長治さんだったというのも、また感激しました。
当時、34歳の淀川さんは東宝の宣伝部に入社されていました。黒澤監督と淀川さんは友達のような関係だったそうで、本ポスターのキャッチコピーも書かれています。