合成意識を目指すなら、どこから作り替えるべきか

今回の総説により、意識をめぐる議論は「正しいプログラム探し」だけではすれ違いが起きやすく、「計算の素材と作法」まで含めて考える必要がある可能性が示されました。
著者たちは、「意識が成立しうる計算の土台には、デジタル計算とは違う“素材の条件”があるのではないか」という直感を丁寧に描き出しています。
この視点の社会的インパクトは小さくありません。もし意識にとって「素材」が重要なら、AIの安全性や権利についての議論は、「どれだけ自然に会話できるか」や「テストでどれだけ高得点を取るか」だけでは決めにくくなるかもしれません。
合成意識を本気でめざす研究も、アルゴリズムをさらに巨大化するだけではなく、液体やイオンを使うデバイス、ニューロモルフィックな回路、培養した神経細胞やオルガノイド(ミニ脳のような組織)など、「計算する物質そのもの」を設計する方向に重心を移していく必要が出てくるでしょう。
論文でも、液体やイオンを使う仕組み、ニューロモルフィックな回路、培養した神経細胞やオルガノイドといった方向性が例として挙げられています。
もちろん、だからといって今すぐ「意識=素材」と決めつけることはできません。
研究者たちの考えは証明済みのものではなく、「これまでの知見から見て有力そうな候補」として提案されています。
それでも、この研究には重要な価値があります。
AIと意識の議論が、しばしば感情的な「賛成/反対」や、「テストで人間に勝てたかどうか」といったわかりやすい指標に頼りがちだったところから、一歩引いて、「脳という物質がどんな計算をしているのか」「その計算の作法を別の素材で再現できるのか」という、ゆっくり検証できるレベルに話を引き下ろしてくれるからです。
元論文
On biological and artificial consciousness: A case for biological computationalism
https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2025.106524
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

