暮れのグランプリGⅠ・有馬記念(12月28日、中山・芝2500メートル)を読み解くキーワードは、例年にも増して「余力」と「枠順(馬番)」と「展開」になるのではないか。まずは最も重要と思われる「余力」から考察してみたい。
有馬記念は「秋古馬3冠レース」の最終戦に位置づけられているが、暮れのグランプリをその年の最大目標に見据える陣営は、むしろ少ない。年明けに古馬となる3歳馬も含めた一線級の実力馬にとって、天皇賞・秋からジャパンカップへと続く秋のGⅠ戦線こそ、なんとしても1着を勝ち取りたいゴールデンロードなのだ。
そこで次なる着目点として浮上してくるのが「逆もまた真なり」という事実である。例えば今秋の始動戦に天皇賞・秋を選択し、続くジャパンカップをあえて回避したケースなど、余力を残す形で有馬記念に照準を定めてきた陣営には要注意だ。
ただし、である。いかに余力があろうとも、過去に一度もGⅠ勝ちのない馬にとって、暮れのグランプリは家賃が高すぎるのもまた事実。詰まるところ「十分な余力を残し、かつ、GⅠ勝ちのある馬」が激走候補として浮かび上がってくるのだ。
今年の出走メンバー16頭を見渡すと、この2条件をクリアしているのはミュージアムマイル(牡3)、レガレイラ(牝4)、メイショウタバル(牡4)、ダノンデサイル(牡4)の4頭のみ。さらに言えば、この2条件に「枠順(馬番)」と「展開」の利を加味すれば、馬券推理の精度は一段と高まっていくことになるだろう。
有馬記念が行われる中山の芝2500メートルは、スタート直後に右急カーブが迫るトリッキーなコースゆえ、内寄りの枠(馬番)を引き当てた馬のアドバンテージは絶大だ。中でもスタートから前々のポジションを確保できる「逃げ・先行馬」には、小回りのコーナー6つをコースロスなく周回できる展開の利が加勢する。
今年の場合、以上の条件を全て満たす馬は、メイショウタバルただ1頭。ただし1枠1番に収まったエキサイトバイオ(牡3)にはGⅠ勝ちこそないものの、絶好枠からの大逃げ一発の可能性が大いにありうる。場合によっては、メイショウタバルとエキサイトバイオによる「行った行った」のワンツー決着まで考えられるのではないか。
それぞれの競馬ファンがそれぞれに描く「感動のドラマ」を乗せてゲートが開く、暮れのグランプリ。最後の直線で逃げ粘るエキサイトバイオを射程圏内に入れたメイショウタバルの武豊が、今年8月に天国に旅立った松本好雄オーナーに届けとばかりに、渾身のムチを振るう。筆者は今年、こんなドラマを心秘かに描いている。
(日高次郎/競馬アナリスト)

