「このままで人生、終わっていいのか」
そんな焦燥感を抱える中年世代が今、静かに増えている。その背景にあるのは、子育てが一段落した後に訪れる喪失感、いわゆる「空の巣症候群(エンプティ・ネスト・シンドローム)」だ。
長年、親として、家庭の裏方として走り続けてきた40代、50代。子供が独立し、日々の役割が急に消えた瞬間、自分には何が残っているのか分からなくなる。仕事に大きな変化はなく、家庭内で必要とされる場面は激減。そんな時に顔を出すのが「自分は何者なのか」という問いだ。
これに拍車をかけているのが、近年ブームの「MBTI診断」である。これは人間を16タイプに分類する性格診断テストで、とりわけ「人気が高い」のは「ENFJ=主人公タイプ」。診断結果を見て「自分は主人公なんだ」と一瞬、高揚するものの、現実の自分は誰かの物語の脇役のまま。そのギャップに、かえって虚しさを感じる中年が少なくないというのだ。
そしてこの症状が強まるのは年末だ。周囲は忘年会や帰省、仕事納めに向けて慌ただしく動いている。一方で、誘われる場が減り、予定が空白だらけのカレンダーを眺める日々。「自分だけが取り残されている」という感覚が「何者かになりたい欲求」を刺激するのだ。
SNSでは突然、自己啓発や副業、スピリチュアルに傾倒する中年の姿が目立つ。「このまま終わりたくない」という叫びの裏返しだろう。だが、無理に主人公になろうとすれば、疲弊するのもまた事実だ。
必要なのは新しい肩書きでも、劇的な成功でもない。生活の中に小さな予定や役割を戻していくこと。誰かに必要とされる場をひとつ作るだけで、不安は驚くほど薄れていく。もし今、「空の巣症候群」に陥っているなら、前向きに試みてはどうだろう。
(旅羽翼)

