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「生まれたての言葉と出会う」永井玲衣×頭木弘樹(文学紹介者)『これがそうなのか』刊行記念対談

「生まれたての言葉と出会う」永井玲衣×頭木弘樹(文学紹介者)『これがそうなのか』刊行記念対談

聞くことや受け取る能力、本当の気持ちを言語化する力を磨く

――最近は言語化能力についての本が出版されるなど「話す」「伝える」言葉にスポットが当たっていますが、対話の場面ではむしろ「聞く」「受け取る」ことが大切なのでは、とお二人の話で気づきました。

頭木 最近オープンダイアローグ(もともとは精神医療の現場で、当事者やその関係者が集まって行っていた対話の方法)というのを初めて体験したんです。そのとき友達役をやったんですが、本当の友達じゃないから、返事をする必要もなく、ただ黙って聞くだけになりました。それは退屈なんじゃないかと思ったら、ぜんぜんちがったんです。すごくじっくり人の話を聞けて、こんなにちゃんと聞いたことはないと、感動しました。どういうことかと考えてみると、普通、誰かと話しているときって、「どう返事をしようか」とか半分考えながら聞いているんですね。そのせいで本当には話を聞けていない。そのことに初めて気づきました。対話って日常でずっとやっていることなのに、まだまだ発見や可能性を秘めているんだなと思いましたね。
永井 対話は話し合うよりもきき合うことだし、みんなできくことに真剣になってみる場。全員で集中してきこうというところから始めるからこそ、励まされて一緒にきけたり、もっとききたくなったりという場が立ち現れやすくなるのかもしれません。
頭木 なるほど。
永井 言語化に関しても、いま話題になっているビジネスシーンでの言語化と、しんどかったり大切だったりする何かを言葉にしようと奮闘することとは全然違うような気がして。人が決死の思いで絞り出したひと言を手渡されたとき、そこから何がきこえてくるかに耳を澄ませるとか、沈黙をそっと見守るとか、受け取り方についてもっと議論されてもいいんじゃないかと思います。
頭木 ほんとにそうですね。カミュの小説『ペスト』でも、こちらは「最も真実な悲しみ」を語りたいのに、相手は「あり来たりの感動や市販の商品みたいな悲しみや、十把ひとからげの憂鬱などを心に描いている」ので伝わらない、ということが書いてあります(宮崎嶺雄訳、新潮文庫)。聞いてもらうためには、相手に合わせてありきたりに語るしかないと。そうではない対話をしたいですよね。語るほうも、本当の気持ちを何とか言葉にできないかとがんばり、聞くほうも、ありきたりな理解に落とし込もうとせずに、相手がどういう気持ちを語ろうとしているのか、がんばって耳を傾ける。
 それでいうと、第二部の「もっとください」の章は「きく」話ですが、永井さんが受けた授業で「もっとください」と言った先生はすごいですね。「もっとわかりやすく説明しなさい」の対極ですね。病院の診察でも、医師が「もっとください」と言ってくれたらいいんですが(笑)。さっきの“ズキズキ”のように、自分の痛みや苦しみはなかなかうまく言葉にできないから、「早く正確に」と圧をかけられると、焦ってますます言葉が出てこない。宮古島で入院したときに驚いたのですが、向こうの病院では忙しいはずの医師や看護師がゆっくり話を聞いてくれるんです。すると患者も落ち着いて話せるから、むしろ診察時間が短くてすみ、すぐに順番が回ってくるんです。
永井 対話でも同じです。たくさん話す人は、きかれていない人でもあるなと思うようになりました。
頭木 東京の病院の待合室には、話がくどくて誰にも聞いてもらえないお年寄りがよくいました。お年寄りの話はくどいものと思っていたのですが、宮古島ではそうではありませんでした。本気でじっくり聞いてもらえるから、いちどで話が成仏するんですよね。
永井 話が成仏するっていう言葉が頭木さんの『口の立つやつが勝つってことでいいのか』に出てきて、まさにそれだと思いました。これは本当にいい言葉。出会って良かった言葉のひとつになりました。

「小説すばる」2025年12月号転載

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