■「仮面ライダーフォーゼ」「あまちゃん」への出演で一気に注目の若手俳優に
福士は2011年に香里奈主演の「美咲ナンバーワン!!」で俳優デビュー。注目されたきっかけは、同年放送の「仮面ライダーフォーゼ」への出演だった。シリーズ初の学園青春ドラマ仕立てのストーリーとなったこの作品で、リーゼント姿の高校生ライダーを屈託のない明るさと弾けるエネルギーで体現し、子ども~女性層を中心に一気に支持を獲得。その後、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」への出演も重なって、幅広い世代に認知される全国区の存在に。

そしてイケメン俳優の筆頭株として挑んだ有川浩のベストセラー小説の実写化「図書館戦争」シリーズでは、言論統制が進む近未来を舞台に本を守る図書隊の若き隊員に扮し、トップランナーとしての存在感を強めていった。

■『好きっていいなよ。』「きょうは会社休みます。」での好演でブレイクした2014年
そんな福士のブレイクイヤーは2014年。川口春奈とW主演した『好きっていいなよ。』では学校イチのモテ高校生に扮し、特撮モノのスーツアクターに焦点を当てた『イン・ザ・ヒーロー』では唐沢寿明による主人公と衝突する人気若手俳優を妙演。そして三池崇史監督によるサバイバルアクション『神さまの言うとおり』で、命を懸けたデスゲームに突然参加させられる男子高校生を体当たりで演じるなど、ジャンルも性格も異なる3本の映画が立て続けに公開されている。

さらにこの年は話題のドラマへの出演も相次ぎ、“福士蒼汰”の名が世間に深く浸透していくことになる。なかでも彼の恋愛モノでのポテンシャルの高さを知らしめたのが「きょうは会社休みます。」で、恋愛経験のない30歳OLの花笑(綾瀬はるか)と恋に落ちる“大学生の田之倉”という役どころで登場。相手を尊重しつつも、9歳の年齢差をものともせずに一途な恋を貫き通す姿で多くの女性の心をわしづかみに!
鮮烈な印象を残したこの年の活躍により、福士は日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。さらにエランドール賞新人賞にも輝き、時代を牽引する若手俳優としての地位を確立した。
■表現の幅を広げると共に海外作品にも参加
その後も福士は表現の幅をさらに押し広げていく。明治初頭の日本を舞台に、町を守る曇神社の14代目に扮した『曇天に笑う』(18)では、ノースタントでアクションに臨みフィジカル面での強度を披露。

かと思えば、『旅猫リポート』(18)では飼い猫の新しい飼い主を探す旅に出る猫好きの青年像を心柔らかに表現し、「弁護士ソドム」では一転して(表向きは)ダークな悪徳弁護士役を怪演。さらに近年は国際共同制作ドラマ「THE HEAD」シーズン2に参加するなど海外作品にも活躍の場を広げ、異なるトーンの作品で役者としての引き出しを着実に増やしている。

■3つの顔を演じ分ける福士蒼汰の抑制された演技と空気感
そうした様々なキャリアの蓄積を経たいま、福士が挑んだ正統派ラブストーリーが『楓』である。本作で福士が演じるのは、事故死した双子の弟、恵とその兄である涼。涼が恵の恋人の亜子(福原遥)をこれ以上悲しませたくないという思いから、弟の“ふり”をして生きるというあまりにも切実な人間ドラマが展開されていく。

本作が描くのは、感情を激しくぶつけ合う恋ではない。大切な人を突然失い、喪失感に苛まれる人々が、“誰か”を想うがゆえに立ち止まり、ためらい、それでも相手を想い続けてしまう優しい愛の物語だ。
その繊細な関係性に説得力を与えているのが、福士の抑制された演技である。今回の彼は、涼と恵、そして恵のふりをして生きる涼という3つの顔を、わずかな表情の揺れや空気感の違いによって丁寧に演じ分けている。行定監督が本作に込めたキーワードの1つでもある“遠慮”と、福士の不器用でありつつも誠実さをにじませた演技が高い親和性を見せ、観る者の感情にそっと寄り添うような静かな感動をもたらしている。

そうした静かなる熱演を受け止める余白として、本作のロケーションもまた重要な役割を果たした。物語のキーとなる舞台となった、世界に3か所しかない星空保護区の最高位である「ゴールドティア」の1つ、ニュージーランドのテカポ湖。かつて恵と亜子が語り合った“彗星探し”の約束は、満天の星空の下で再び意味を帯び、登場人物たちの“大切な人への想い”を照らしだす。スピッツの「楓」が持つ別れと再生の余韻もまた、映像と音楽を通して胸に深く沁み込んでいく。
■福士蒼汰の“恋愛映画としての到達点”となった『楓』
“役”と向き合う際には、ジャンルやキャラクターに囚われることなく「その人物や作品を理解し、好きになること」を大切にしていると語っている福士。これまで数多くの作品で与えられた役柄の内面を掘り下げて受け止めるなかで、演者として表現の引き出しを増やし、物語のなかで生きる人々の人生を描きだしてきた。

そんな積み重ねを経て、役者としての成熟を携えた彼が改めて真っ向から向き合った『楓』。彼の“恋愛映画としての到達点”を鮮やかに映しだすこの人間ドラマを、静謐な映像美と共に劇場で堪能してほしい。
文/足立美由紀
