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大事なのは長距離打者の証となる本塁打とOPS――村上宗隆の未来を大きく切り開くメジャー1年目の「ノルマ」<SLUGGER>

大事なのは長距離打者の証となる本塁打とOPS――村上宗隆の未来を大きく切り開くメジャー1年目の「ノルマ」<SLUGGER>

クリスマス・ショッピングが最後の追い込みに入った12月22日の月曜日(現地)。氷点下のシカゴのダウンタウンから南へ車で約5分のレイト・フィールドで、25歳の村上宗隆は凍てつくほどのグラウンドとは対照的なほど暖房が効いた会見場で、こう切り出した。

「Hello. My Name is Munetaka Murakami. White Sox Nation, You guys (are) in my heart. WHITE SOX!!!」

「つかみはオッケー」。緊張感が漂う中で始まった入団会見の冒頭、拍手と笑い声が起きた後、村上は続けた。

「野球を始めて今日に至るまで、たくさんの方々に支えられ、今の自分があります。今日、この日まで携わってくださった皆様、何より両親に心から感謝しています」

 弱小球団をカバーする地元メディアは少ない、と思いきや、我々、日本人メディアが20人近くせいか、総勢50人近くになった報道陣が詰めかけた。村上は続ける。

「今、このユニフォームに袖を通して、ようやくスタートラインに立てた気持ちです。このレイト・フィールドでプレーできること、今、ものすごく興奮しています。(中略)僕の目標は勝つことです。成長することです。挑み続けることです。どんな相手だろうと立ち向かい、諦めません。この球団に最大限貢献したいと思います。野球の面白さ、素晴らしさ、楽しさをこの球場であらわしていきたいと思ってます」

 その一語一語に、気持ちがこもっていた。もちろん、最後に日本のファンに向けての感謝の言葉も忘れない。「日本で応援してくださったファンの皆様、距離は離れますが、これからも常に一緒に戦ってくれると信じてます。今後ともよろしくお願いいたします。そして、もちろん日本のファンの皆様も常に僕の心の中にあります」

 空振り率が高いこと、メジャーリーグの投手たちへの対応。守備への不安。4年や5年の長期契約? などという噂が飛んだ中での2年契約≒低評価。当然、質疑応答で聞こえたのも、不安材料を前提にした質問である。

――アメリカで成功する自信。
「やり抜く自信はある。壁に当たった時、しっかりサポートしてくれる球団の方もいるし、自分もそれを乗り越える力はあると思ってる。その答えで言うと、自信はあります。数字とかはあんまり考えてない」

――2年契約だった。
「勝負するにあたって、短くても長くても、しっかり野球と向き合って成長することを目標に(米国に)来ようと思ってたので、驚きはない。まだまだ僕の人生は続く。ここでしっかりスタートして、頑張っていきたい」

――守備についての自信は?
「守備はあんまり自信ないですけど、それを克服しながら、しっかり努力して上達します。頑張ります」

 村上が上手く取材対応した後、かつて井口資仁(現解説者)を取材した(ということは20年以上の)ベテラン記者は「こういうのは随分と久しぶりだけど、楽しみだね」と嬉しそうだった。
  まだ一球もメジャーリーガーの投げる球を見てない打者に、今から「ああでもない、こうでもない」と言うのはナンセンスだと分かっている。だが、そういう質疑応答があって、それを読んで「ああでもない、こうでもない」とファンが想像するのも、プロ野球という名のエンターテイメントの一部である。

 我々、日本のメディアにとっては、2023年の吉田正尚(レッドソックス)以来となる「日本人野手」のメジャー移籍であり、20年の筒香嘉智(現ベイスターズ)以来の「日本人内野手」のメジャー移籍だ。22年、日本プロ野球史上最年少で三冠王に輝いた村上への期待が高まるのも当然である。

 だからこそ、慎重にならなければならない。以前のコラムでも書いたが、大事なのは1年目ではなく、2年目以降なのだ。

 そもそも、日本球界から移籍した選手で最優秀新人賞=新人王に輝いたのが、過去に野茂英雄(1995年/ドジャース)、佐々木主浩(00年/マリナーズ)、イチロー(01年/マリナーズ)、そして大谷翔平(18年/エンジェルス)のたったの4人しかいないことからも、「日本人打者」にとってMLB移籍が簡単なことではない事実が分かる。

▼日本人新人王2人の打撃成績
イチロー
7.7WAR 157試合 8本塁打 69打点 56盗塁 打率.350 OPS.838
大谷翔平
2.7WAR 104試合 22本塁打 61打点 10盗塁 打率.285 OPS.925
(大谷のWARは打撃のみ。投手としての1.3はここでは加算しない)

 ご存じの方も多いと思うが、イチローの1年目は、アメリカン・リーグの首位打者と最多盗塁のタイトル(+最多安打)を獲得し、MVP(最優秀選手賞)とのダブル受賞だった。大谷は「投打二刀流」を評価されての新人王なので、他と比較するのは難しい。では、この2人を除けば、1年目から活躍した主な「日本人打者」の成績はどうだったか?
  選手名    WAR    試合    本塁打    打点    盗塁    打率    OPS    新人王投票
松井秀喜*    2.3    163    16    106    2    .287    .788    2位
井口資仁    2.8    135    15    71    15    .278    .780    4位
城島健司    2.6    144    18    76    3    .291    .783    4位
青木宣親*    3.2    151    10    50    30    .288    .787    5位
松井稼頭央**    1.0    114    7    44    14    .272    .727    6位
吉田正尚    1.4    140    15    72    8    .289    .783    6位
福留孝介*    0.6    150    10    58    12    .257    .738    8位
岩村明憲*    2.2    123    7    34    12    .285    .770    圏外
鈴木誠也    1.8    111    14    46    9    .262    .770    圏外
新庄剛志    1.8    123    10    56    4    .268    .725    圏外
*左打者 **両打ち 太字は位置トート大谷を除いた日本人野手最高
                                
 ヤンキースで高いOPSで打点を稼いだ松井秀喜。表にはないが「日本人野手」歴代最多の11犠打、6犠飛を記録しながら、安定した打撃成績を残した井口。今のところ史上唯一の「日本人捕手」で、大谷が来るまで1年目の「日本人打者」の最多本塁打記録保持者だった城島。控えから這い上がって、上記の表の中で最高のWARを記録した青木の活躍は、タイプや守備位置が違えど、村上にとって一つの指針になるのではないか。たとえば、あえて盗塁を含まず、その4人の打撃成績を平均すると、こんな数字が出てくる(小数点以下は切り捨て)。

148試合 14本塁打 75打点 打率.281 OPS.784  

 お気づきのように、この平均にとても似た成績を残した選手が、23年にメジャーに移籍した吉田正尚である。

140試合 15本塁打 72打点 打率.289 OPS.783

 現在のMLBでは、打率はあまり重要ではない。打点も、前を打つ打者が出塁しているか否かに大きく関わってくる。昨季リーグ15球団中14位の647得点、同626打点だったホワイトソックス打線にはあまり期待できないので、その分、そこまで重視はされないだろう。大事なのはやはり、長距離打者の証となる本塁打とOPSである。
  2年目につながるような確固たる足跡を残すため、という意味で、ホワイトソックスは村上にとっての最適解の球団だ。3年連続でシーズン100敗以上と低迷中のチームの当面の目標は、100敗脱出と3年連続地区最下位の回避である。乱暴な言い方をすれば、その先にあるはずの勝率5割以上やプレーオフ争いはまだ考える必要がない。

 勝負の1年目、最も大事なのは怪我をせず、安定して試合に出場し、打席に立ち続け、140試合前後、550回以上は打席に立つこと。それが村上の未来を大きく切り開くことになるだろう。

 それは村上自身が一番、分かっている。「米国の投手との対戦は何がチャレンジになる?」と問われた時、彼はこう答えている。「全部っすかね。見てくれれば分かると思うし、説明するより結果で。試合が始まって、僕が打席に立った時に、また同じ質問をしてくれたら詳しく話せるのかなと思う」

 まあ、そう急かさないで。シーズンが始まれば分かるから。

 そう言いたげな彼の表情は、まさに虎視眈々。

 大きな志を抱きながら、日本とは違う異国の野球への適応に全神経を集中し、自分の成績に徹底的にこだわるのみ。その準備はすでに、できているようだった――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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配信元: THE DIGEST

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